日本では「反復練習」の重要性がことさら強調されます。しかし、ピアノを弾いたり新しいスポーツをマスターしたりといった新しい動作スキルを身につけるための鍵は、どれだけ練習に時間をつぎ込んだかではなく、どのように練習したかであるようです。
http://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(15)01514-6
わずかに変化させた訓練が学習効率を2倍に
ジョン・ホプキンス大学の筆頭研究員パブロ・セルニックらは、トレーニングをわずかに変化させることによって、学習の過程で脳をより活性化させ、一定水準のスキルを身につけるのに半分の時間で済むようになることを発見しました。
これまでピアノの演奏やスポーツといった運動スキルを身につけるには、同じ練習を何度も何度も繰り返すことが良いという考えが優勢でした。しかし今回の研究は、そのような説のかわりに、より効果的に、そしてより楽しくスキルアップできる方法を提唱しています。
それは、マスターしようとしている課題に僅かに修正を加えて練習することで、全く同じことを何度も連続して練習するよりもより多くそしてより速く学習できるということ。
研究者チームは86人の被験者を3つのグループに分け、「小さな装置を押しつぶすことで、コンピューター画面のカーソルを動かす」という新しい技術を45分間にわたって練習してもらいました。
その6時間後、一つのグループは一回目と同じトレーニングを繰り返し行い、2つ目のグループは押しつぶす力がわずかに異なるバージョンの課題を行いました。そして3つ目のグループは、最初のトレーニングの一回しか行っていません。
トレーニング後、すべての人がどれくらい正確に、速く新しいスキルを行うことが出来るかをテストしました。予想通り、最初のトレーニングの直後に測った3つ目のグループは最も成績が悪くなりました。
しかし驚いたことに、1つ目の同じトレーニングを繰り返したグループは、わずかに異なるトレーニングをまぜた2つ目のグループに比べ、成績が悪くなったのです。実際、修正されたトレーニングを使ったグループは、元々のトレーニングを繰り返したグループの2倍もうまくスキルを使えました。
では、なぜこのような現象が起きたのでしょうか。一度は長期記憶として安定化した記憶が想起されることにより不安定な状態になり、そして再び安定な状態に戻る神経システムを、再統合(reconsolidation)と呼びます。過去の研究で、運動スキルの習得にはこの再統合が重要な役割を担っているとされてきましたが、この実験でその仮説が実証されたのです。今回の6時間という時間設定も、以前の神経学的研究で、記憶が再統合されるのにかかる間隔として示されていたものでした。
セルニック教授は、たとえば野球のバットやテニスラケット、サッカーボールなどの大きさや重さを、トレーニングセッション間で変化させることを推奨しています。ただ重要なのは、その違いをわずかなものに抑えることです。もしタスクの違いを大きくしすぎると、再統合の効果を得ることはできません。
研究チームは、今回の研究は非常に小規模なものであるため、この結果を再確認するためにさらなる研究が必要だとしています。
今後この研究は、運動スキルだけでなく、特にリハビリなどへの貢献が期待されます。切断患者が人工補装具の使用法をより速く身につけたり、脊髄損傷や脳卒中で苦しむ人々の回復速度をあげたりなど、大きな可能性を秘めているのです。
勉強でも色々なことに関連付けて覚えたほうが良いというし、やはりひたすら頑張るよりも努力の方向性を考えるのは大事。皆さんもぜひ試してみてください。
via: sciencealert, gcoe.tamagawa / nazology staff
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