ライフル弾に近い速度まで耐えられる!
体長は1ミリほどで、約1200種が知られており、高山や深海、南極など、世界中のどこにでも住んでいます。
クマムシは周囲に水がなくなると、「乾眠」という不死身モードに入ります。
こうなるとクマムシは、無酸素や氷点下、高圧、煮沸、放射線、真空と、あらゆる過酷な環境にさらされても死にません。
30年間冷凍させても、水をかければ再び動き始めるのです。
過去には、博物館に130年間保管されていたクマムシが復活した例があります。
ある意味で「最強」の名にふさわしい生物です。
そこで今回、研究チームは、クマムシをライトガスガンで発射し、どれほどの速度まで耐えられるかを実験しました。
使用したライトガスガンは、水素やヘリウムなどの軽ガスを急速に加圧することで、秒速8kmまでの射出速度を生成できます。
チームは、淡水棲のドゥジャルダンヤマクマムシ(Hypsibius dujardini)を用い、ナイロン製のサボ弾に入れて冷凍し、乾眠状態を誘発しました。
※サボ(Sabot)とは、銃の口径より小さな弾頭を発射する際に、弾頭に装着するアダプターのこと
その後、サボ弾をライトガスガンに装填し、真空チェンバー内の砂床に向けて、秒速0.556~1.00kmの範囲で発射しました。
それから、クマムシを取り出して水に浸け、乾眠状態から復活するかどうかを観察します。
その結果、射出されたクマムシは、秒速825mまで耐えることができたのです。
拳銃弾がだいたい300〜400m/s、ライフル弾が880m/s、速いものだと1450m/sほどですから、クマムシは、ライフル弾に近いスピードまで耐えられるということです。
対照として用意した「射出なし」のグループは、約8~9時間で乾眠から回復しましたが、825m/sはクマムシが耐えられるギリギリのラインのようで、回復にはそれ以上の時間がかかっていました。
体にもわずかの損傷が見られています。
また、901m/sまで上げるとクマムシは完全につぶれ、弾丸内でジャムのようになっていたようです。
今回の結果は、クマムシがある程度の衝撃なら、他惑星への不時着にも耐えうることを示唆します。
例えば、2019年に月面に不時着したイスラエルの探査機「ベレシート」には、数千匹のクマムシが載せられていました。
事後調査によると、ベレシートの月面衝突は、垂直方向の速度が134.3 m/s、水平方向の速度が946.7 m/sと分かっています。
つまり、探査機に搭乗していたクマムシは、この墜落事故を生き延びた可能性があるのです。
もしかしたらクマムシは、小惑星に乗った生命が他惑星への衝突によって宇宙に広がるという「パンスペルミア説」を可能にする存在なのかもしれません。