フェルミ粒子でもボソン粒子でもないパラ粒子
フェルミ粒子とボソン粒子の2元論を疑え
パラ粒子(パラ統計)の概念が最初に大きく注目されたのは、1950年代に物理学者ハーバート・グリーンが提唱した理論がきっかけです。
当時の量子力学では、あらゆる粒子は「フェルミ粒子」か「ボソン粒子」のどちらかに分類されるという常識が確立されていました。
電子や中性子のような物体を構成するフェルミ粒子は、いわゆるパウリの排他原理によって「同じ状態に二つ以上が入れない(1個しか占有できない)」という特徴を示します。
一方、ボソン粒子の代表例は光子(光の粒)で、無数の粒子が同じ量子状態を共有できる性質を持っています。
実験的にも、この区別は多くの物理現象と見事に合致していたため当たり前のルールとして広く受け入れられていました。
このフェルミ粒子とボソン粒子はスピン数をもとにする考えで分けることができます。
スピンという単語にアレルギーを持つ人もいるかもしれませんが、大丈夫です。
実際、そんなに難しい話でもありません。
スピンというのは言ってみれば、量子の性質を区分けする方便のようなもので、言葉の意味するように量子が本当に回っているわけではありません。
スピンの正体は「粒子固有の方向感覚」や「印(しるし)」のようなものだと考えるとわかりやすいでしょう。
この“方向感覚”が半分の単位ならフェルミ粒子、丸ごとの単位ならボソン粒子というふうに大まかに分かれます。
(※よく言われる「スピンが整数ならボソン粒子、半整数ならフェルミ粒子」というものです)
また数学的な表記ではフェルミ粒子は位置交換によって波動関数がマイナスになるという特質があり、一方ボソン粒子は位置交換でも波動関数がプラスのままという性質が知られていました。
しかし、理論家たちは「フェルミ粒子のように交換すると波動関数にマイナス符号がかかるパターン」と「ボソン粒子のようにプラス符号がかかるパターン」だけが、どんな次元でも本当にすべてなのだろうかという疑問を抱きました。
特に、数学的な観点からは「ボソン粒子でもフェルミ粒子でもない交換特性」を持つ粒子統計、いわゆる“パラ粒子”が可能ではないかと示唆されていたのです。
ただこれまでは、パラ粒子をフェルミ粒子やボソン粒子と区別する理論的枠組みがありませんでした。
「理論的には違うものだが、実世界では観測によって区別できない」ならば、それは実質的に違いが無いとみなされてしまいます。
次はそんな理論だけと思われていたパラ粒子の性質について解説します。
パラ粒子とはフェルミ粒子とボソン粒子の中間的性質を持つ
パラ粒子は普通の粒子と何が違うのか?
その最大の特徴は「位置交換」というルールの違いです。
普通の3次元空間で粒子を入れ替えるとき、波動関数(粒子の状態を表すもの)は「プラスに変わらない」か「マイナスに変わる」かの2通りしかない、というのが定説でした。
フェルミ粒子が同じ場所をシェアできない理由は、同じ座標を占めると波動関数が完全に重なって区別がつかなくなり、フェルミ粒子特有の“マイナス符号”が作用して波動関数がゼロ(=物理的に起こらない状態)になってしまうからです。
リチャード・ファインマンはこの現象について「同じ量子状態に二つの電子が来ようとすると、確率振幅(wave amplitude)が 位相のひっくり返り(phase flip) を起こして消えてしまう」と述べています。
たとえば、ダンスに例えるならば「同じ席に2人が座ると、2回入れ替えのステップで踊りが崩壊する」ようなもので、それ自体がルール違反として“存在できない”わけです。
一方、整数スピンの粒子(ボソン粒子)にはそんな裏返し(マイナス符号)が生じないので、複数が同じ場所にぎゅっと重なっても波動関数は問題なく成立します。
実際、たくさんの光子(ボソン粒子)が一つのレーザー光に“束ねられる”のは、こうした性質によるのです。
つまり波動関数がプラス側であるボソン粒子は重なっても大丈夫でフェルミ粒子はマイナス側にいくことがあるため同じ場所を共有できない、というわけです。
一方でパラ粒子の場合は、入れ替えるたびに「プラスかマイナスか」に単純には収まらず、まるで複数のパズルピースが回転・組み替えられるかのように状態が混ざり合うマトリックス(行列)変換を起こす可能性があります。
イメージとしては、ボソン粒子やフェルミ粒子なら円形か三角形かどちらかしか存在しないとされていたパズルに、四角形や星形が追加されるようなもので、「ここから先は新しい形が組み込めるかも」と期待されているわけです。
もうひとつの重要なポイントは、パラ粒子の「排他原理」に関する独特の性質です。
繰り返し述べているように、フェルミ粒子は「同じ量子状態を絶対に共有できない」(定員1名の超絶厳しいルール)で、ボソン粒子は「いくらでも共有OK!」(定員無制限)という対照的なふるまいを示します。
ところがパラ粒子は「ある定員数まではOK、しかしそれを超えると一切入り込めなくなる」という、中間的なルールを持つと考えられているのです。
もし本当にこの性質が存在し、しかも観測可能な形で実現するならば、「1人きりか、または大勢か」という二択しかなかった世界に新たな選択肢が加わることになり、量子力学は大きな変革の時が訪れるでしょう。
次はパラ粒子を見つけるためにつかった数学的なテクニックを言語化して紹介していきます。