平衡感覚がなく、耳が聞こえなかったか
鎧竜のグループは、正式には「曲竜類(きょくりゅうるい、Ankylosauria)」と呼ばれ、主に中生代の白亜紀(1億4500万〜6600万年前)に生息していました。
本研究で対象とした種は、ノドサウルス科に分類されるストルティオサウルス・オーストリアクス(Struthiosaurus austriacus)です。
S. オーストリアクスは、比較的小型のノドサウルスで、約8000万年前のオーストリアに分布していました。
調査された化石は19世紀にウィーン南部で発見され、地元の古生物学研究所に保管されていたものです。
今回、グライフスヴァルト大学(UG・独)、ウィーン大学(UV・墺)の研究チームは、長さ5センチほどの脳頭蓋を調査。
脳頭蓋は、脳やその他の神経感覚組織が収められていた場所で、その構造から頭蓋骨の向きや聴覚能力を知ることができます。
この脳頭蓋をマイクロCTでスキャンし、3Dでデジタル復元した結果、興味深い事実が得られました。
まず、脳の中で進化的に古い部分であるフロキュラス(小脳の基部にある小さな部位)がきわめて小さいことが分かっています。
フロキュラスは頭や首、全身を動かす際に目を固定するのに重要な部位で、ライバルや獲物を狙う動物にとっては非常に有用です。
しかし、フロキュラスが小さく未熟であることから、S. オーストリアクスの動きはかなり鈍重であったことがうかがえます。
さらに、内耳の中にある蝸牛管(かぎゅうかん)が、これまで発見されている恐竜の中で最も短いものでした。
これと合わせて三半規管の形も踏まえた結果、S. オーストリアクスは平衡感覚に乏しく、耳がほぼ聞こえていなかったことが示されました。
それゆえ、歩いてもコケたりしないように体高が低く、どっしりした短い脚と、急に襲われても身を守れるような全身装甲を発達させたと考えられます。
また、仲間とのコミュニケーションが取れないことから、常に単独行動を取っていたと見て間違いないようです。
こうした特徴がすべての鎧竜に当てはまるかどうかは定かでありません。
それでも、彼らの見た目の類似性からして、同様のハンデキャップを背負っていた可能性は高いでしょう。