眼球運動は「夢の中で私たちが見ている方向」を示していた?
「レム睡眠の眼球運動は、夢世界の情景を追っている証拠ではないか」という仮説は、20世紀の後半に主張され始めました。
しかし、それを実証する手立てはなく、できることとしては、レム睡眠時の眼球運動を記録した後、その人を起こして「夢の中でどこを見ていたか」と尋ねることだけでした。
ただ、これで正確なデータが得られるわけはありません。
そこで研究チームは今回、私たちと同じく、眼球運動を伴うレム睡眠をすることで知られるマウスを用いました。
加えて、マウスの脳内には、コンパスのように働いて「頭の向き」を教えてくれる細胞集団が存在します。
マウスが起きて走り回っているとき、このコンパス細胞の電気活動は、環境中を移動しているマウスの頭がどの方向に向いているかを正確に示してくれるのです。
またこれまでの研究で、コンパス細胞は、レム睡眠中にも活動することがわかっています。
そこでチームは、覚醒時のマウスの眼球運動と、脳内のコンパス細胞の電気活動を記録し、双方のデータを対応させました。
これにより、眼球が動く向きと、コンパス細胞の示す方位変化(電気活動)がどのように一致するかがわかります。
次に、レム睡眠時のマウスの眼球運動を、両目の前に置いた小型カメラでモニタリング。
睡眠中のマウスは、まぶたを完全に閉じていないことが多いため、目の動きの方向を正確に測定することができました。
さらに、覚醒時と同様に、レム睡眠時のコンパス細胞の電気活動を記録し、睡眠時の目の動き、および覚醒時のデータと比較します。
その結果、レム睡眠時のマウスの眼球運動の向きは、起きて走り回っているときと同じように、コンパス細胞が示す方位変化と正確に一致することがわかったのです。
つまり、マウスは、夢の中を自由に走り回って、その走っている方向に目を向けており、それがレム睡眠の眼球運動になっていると考えられます。
このことから、研究チームは「レム睡眠時のヒトの眼球運動も、夢世界で目を向けている方向と一致するのではないか」と推測しました。
研究主任のマッシモ・スカンツィアーニ(Massimo Scanziani)氏は「今回の研究により、レム睡眠時の眼球運動がランダムな方向に向けられるのではないことが示されました」と指摘。
「この結果は、睡眠中の脳で進行している認知プロセスを垣間見せてくれると同時に、何十年も科学者の好奇心を刺激してきた、夢に関する謎を解くための鍵となるでしょう」と述べています。
スカンツィアーニ氏と研究チームは、私たちが起きているときも夢を見ているときも、同じ脳部位が協調していることを発見しており、それに基づいて、「夢は1日を通して集められた情報を統合することで、現実にはありえないものを創造する手段ではないか」という仮説を立てています。
それゆえに、夢は私たちに不可能なものを見せてくれるのです。
たとえば、スカンツィアーニ氏は「ダイバーをしていた若い頃に、水の中で呼吸できる夢をよく見た」と言います。
同氏と研究チームは、こうした夢の創造性に焦点を当てて、それがどのようなメカニズムで機能しているのか、今後も調査を進めていく予定です。