今回お話を聞いた研究者、古藤日子さん(左)冷蔵庫で眠らせた状態のオオクロアリに、1.8mm角の二次元バーコードを1枚1枚貼っていく(右)
今回お話を聞いた研究者、古藤日子さん(左)冷蔵庫で眠らせた状態のオオクロアリに、1.8mm角の二次元バーコードを1枚1枚貼っていく(右) / Credit:産業技術総合研究所
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【ナゾロジー×産総研 未解明のナゾに挑む研究者たち】「一人ぼっちになったアリはどうなる?アリの社会性研究」 (3/7)

2023.09.06 Wednesday

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寿命が30年!?女王アリの謎

――こういう研究では、アリたちを研究室の中で飼っていますけど、実験に使うアリっていうのはどうやって調達して来るんですか?

古藤:研究によっていろいろやり方はあると思いますが、私の場合はまず産総研の敷地内から新しい女王アリを捕まえてきます。女王アリさえいれば、あとはもうこのアリがせっせと卵を産んでくれるので、働きアリはどんどん増やしていけるんです。確かに最初の働きアリが出てきて動き出すまで3カ月くらいかかって、その次の世代が生まれるまでまた3カ月とかかかるので大変ではあるんですけど。女王さえいればアリのコロニーはどんどん大きくしていけます。

――なるほど。アリの研究をするときは、まず研究用のコロニーを作り出すところから始まるんですね。なんかもうシムシティとかそういうイメージですね。コツコツ1つの街をつくっていくような。

実験室でケース内に作られたアリのコロニー
実験室でケース内に作られたアリのコロニー / Credit:産業技術総合研究所

※苦手な人に配慮してぼかしています。本来の画像はこちら

古藤:そうですね。それに、女王アリって私が使っているクロオオアリでは寿命が30年くらいと言われていて、30年間ずっと子供を産み続けるんです。だから、もうほんとに家族とか友達みたいに長い付き合いになるので、愛着が湧きますね。

――え? そんな長生きなんですか? もうイヌやネコよりもずっと長生きですね。

古藤:生き物の寿命って身体のサイズと関連するとも言われますけど、昆虫の寿命としては本当にもういろいろ超越した長さですね。30年というのは。

――なんでそこまで長生きするんですか?

古藤:子供を産む以外何もしないということに秘訣があると言われています。生物はみんな次の世代を作ることが最大の目的で、そこに生命力のピークを持ってくるんですね。人間なら20代~40代くらい。なのでその期間を超えると衰えていく。昆だと交尾した直後に死んでしまうというのもたくさんいます。生殖能力があるゆえに私たちには老化や寿命があるといえます。それが女王アリは産むことだけに特化していてそれ以外何もしない。

――産み続けるからずっと生命のピークが続いているような感じですね。

古藤:これは他のあらゆる生命のルールに反していますよね。なにか生命の規則と真逆のことを実現している。なので女王アリの何が他の生命と違って特別なのか? ということは多くの人が疑問に思っていて、非常に注目を集めています。

――これについてもまだわかっていない問題ということですね。何か予想みたいなことは言われているんですか?

古藤:もちろんDNAを調べる方法があるので、その方向から調査はされています。これは私の研究とは別の話にはなりますが、1つに女王アリは遺伝子のエラーを修復する能力が非常に高いと言われています。人間も長く生きればがんになったり遺伝子のエラーは蓄積されていきますが、女王アリはそれを修復する能力が高い。

今の技術なら遺伝子発現がどういう風に変わっているか網羅的に見る方法もありますから、女王アリの長寿についてもこれからまた大きな成果が出るのではないかと思っています。

――それは楽しみな話ですね。では女王になる個体っていうのはどうやって決まるんですか? ハチなんかだと元々個体差はなくて特別な餌を与えられた子供が女王になるって説明を聞きますよね。それがローヤルゼリーですみたいな。

古藤:それもすごく面白くてですね、ハチはおっしゃる通りどういうものを食べさせるかで決まるんですね。でもアリについてはわかっていないことが多くて。

――え、これもわかっていないんですか?

古藤:そうなんです。ハチの巣って六角形の部屋に別れていますけど、あの部屋一つ一つに卵が産み付けられていて、その部屋のサイズいっぱいに成長するんですね。そして部屋の大きさはみんな一緒なんですけど、女王になる子だけ王座という大きい部屋に産み付けられて他より大きく育つんです。巣の構造からすでに女王として育てる子が決まっているので、他の仲間達もそれを理解して特別な餌をあげていると想像できます。

でもアリはまったく何の差もなくみんな一緒に同じ保育園のような場所で育てられるんですね。初期の段階では私たちから見ても何も違いが見分けられなくて、脱皮を繰り返してある程度育ったところで明らかに身体が大きい子が出てくると、あ、次の女王だなってわかるんです。

――生まれたときから特別というわけでもないなら、今のところ人間から見たらどうやって女王アリが出てくるのかわからないですね。でも先程も遺伝子の話しが出ましたけど、遺伝子を調べて何が違うかみたいな調査はあるんですか?

古藤:まさにそれは私も今やっている研究なんです。ただ今言った通り完全に初期の段階で女王アリを見分けることができないので、狙い通りに何か遺伝的な違いを初期の頃から見つけ出せるかはまだわからないです。

――そう考えるとほんと社会性のあるアリって言うのは面白いですね。そういえば女王アリが出現するペースってどうなっているんですか? 寿命が30年近くあると言っていましたけど。

古藤:私は研究室で飼育してると言いましたけど、飼育環境だと新しい女王が誕生するというのはほとんど見たことがないです。ただ、自然の中だと新しい女王は毎年土の中の巣から出てきています。

――飼育環境だと生まれないのはなぜなんでしょう?

古藤:季節要因が大きいと思いますね。自然でも女王が出てくる時期っていうのは1年のごく限られたタイミングで、クロオオアリの場合、冬から春になる辺りなんですね。研究室ではずっと日照時間から温度や湿度も安全に管理して飼育していますから、女王が出現するスイッチというのが入らないんだと思います。

ただ、野外の環境でも女王アリはずっと巣の奥にいて外には出ませんから、そういうことは感じ取れないでしょうし、やはり子育て担当が何か季節を感じ取って決めているのかもしれません。外に出ている仲間が何か巣の仲間に教えたりしているという可能性もあるでしょう。

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