今回お話を聞いた研究者、古藤日子さん(左)冷蔵庫で眠らせた状態のオオクロアリに、1.8mm角の二次元バーコードを1枚1枚貼っていく(右)
今回お話を聞いた研究者、古藤日子さん(左)冷蔵庫で眠らせた状態のオオクロアリに、1.8mm角の二次元バーコードを1枚1枚貼っていく(右) / Credit:産業技術総合研究所
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【ナゾロジー×産総研 未解明のナゾに挑む研究者たち】「一人ぼっちになったアリはどうなる?アリの社会性研究」 (4/7)

2023.09.06 Wednesday

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実は誰でも簡単に捕まえれる!?女王アリの見つけ方

――さきほど女王アリをまず捕まえてきて研究用のコロニーを作るって話しが出ましたが、女王アリっていうのはどうやって捕まえるものなんですか? 昔自由研究で女王アリを捕まえて観察しようとしていた友達がいたんですけど、アリの巣を見つけてスコップで掘り返したりしても結局見つけられなかったんですよね。アリには迷惑な話ですけど、これは研究者じゃなくても誰でも捕まえることは出来るものなんですか?

古藤:巣穴の中にいる女王アリを捕まえようとすると、大きな巣を作るアリだったりすると巣穴の周り何メートル四方の地面全部くり抜いて持って帰って探すってしないといけないのすごく大変だと思います。

――ああ、やっぱそんくらい大変なものなんですね。

古藤:なので私もやったことありません(笑)

――え? ないんですか? 産総研の敷地内で女王アリを捕まているって話でしたけど。

古藤:これちょっと説明が必要なんですけど、さきほど話したようにクロオオアリの女王アリって自然の中では毎年春に巣の外にでてくるんですね。で、その新女王っていうのは元の家族とともに暮らすんじゃなくて、外へ出ていくんです。その新女王アリたちが一斉に巣から飛び立つ日というのがあって、私たちはそれを結婚飛行の日って呼んでいます。

――結婚飛行ですか?

古藤:お嫁に行く日ってイメージですかね。その日はオスアリたちも同時に巣を飛び立って行きます。なのでアリたちには、新女王アリとオスアリだけに翅が生えているんです。そして空で出会って飛びながら交尾をするんですね。そして交尾を終えたオスはそのまま死んでしまい、残った女王アリは地面に降りると自らボキボキっと翅を切り落として地面に潜って、そこで自分の新しいコロニーを作るんです。

――へえ、新しいアリの巣ってそんな風に誕生しているんですね。

古藤:で、もうこの結婚飛行の日になると本当に信じられないぐらいの数の新女王アリが飛び立つんですね。だからその日は10分も歩いていると女王アリが地面に落ちているのを何匹も見つけられます。

――え? じゃあ女王アリって地面に落ちているんですね。そんなたくさんいるんですか?

古藤:もうめちゃめちゃいます。

結婚飛行の日には地面に翅の生えた女王アリが大量に見つかる
結婚飛行の日には地面に翅の生えた女王アリが大量に見つかる / Credit産業技術総合研究所

――その結婚飛行の日っていうのはピッタリ何月何日に起きる現象みたいに決まっているんですか?

古藤:結婚飛行の時期っていうのは種類によって季節が異なるんですが、私が研究に使っているクロオオアリはGW当たりが結婚飛行の日なんです。これは何月何日って決まっているわけでは当然なくて、気象条件によって決まります。具体的には気温の高くて、前日に雨が降っていた日ですね。そして当日はカラッと晴れていて風がない。これが条件です。

――なんか魔女の宅急便みたいですね、飛び立つならこの日がいいみたいな。前日に雨が必要っていうのは?

古藤:地面がカラカラに乾いていると硬いので、湿って掘りやすい状態になっているということが大事なんですね。女王アリは交尾の後、地面に潜る必要があるので。そして空で交尾するので風があってはダメなんです。だからアリの習性をよく知っている人は、結婚飛行の日って感じ取ることができるんですよね。絶対今日だなって。今はTwitter(現X)とかがあるので、日本全国でアリ好きな人達が情報をシェアしていますよ。九州では今日でした、みたいに。

――本当だ。結婚飛行で検索するとTwitterでもいっぱい情報が出てきますね。じゃあこういう情報を元に外に出てみれば、女王アリを簡単に見つけてくることができるんですね。そんないっせいに大勢の女王アリが巣を作り出すと、巣の場所がぶつかっちゃったりってしないんですか?

古藤:確かに私たちが見ていても、すごく近くで別々の女王アリが地面に潜っていて、これ大丈夫なのかな、って思いますけど、彼らはテリトリーがぶつかりあうとやはり喧嘩しますね。

――アリの戦争ってどういう感じなんですか?

古藤:アリたちはニオイで自分の仲間、家族を識別していてニオイの異なる相手が巣に近づくと戦うんですね。ただこれもどの程度戦うかは種類によって違っていて、もう首を切り落とすまで激しく戦うのもいれば、優しい種類はなんかわちゃわちゃぶつかり合っている間に自分のニオイが相手についちゃって敵と認識できなくなって仲良くなっちゃうこともあるんです。

――仲良くなっちゃうんですね。それはなんか微笑ましいですが、やっぱり海外種の方が攻撃的だったりするんですか?

古藤:私が観察したことがある種類では、むしろ日本のアリの方が攻撃的ですね。生物学的に近縁の種類のアリであっても住む地域で性格とかが変わるようですが、私が留学中に見ていたアリは優しくって喧嘩してもいつの間にか仲良くなっちゃって一緒に暮らし始めてたんですが、日本のクロオオアリの場合はぶっ殺すぞって勢いでした。

――意外ですね。日本の方が穏やかなのかと思ってましたが、日本のアリはサムライなんですね。

古藤:まあ実際は性格というよりニオイの強さが関係するんだと思います。

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