弱くて生産性の高い「カイコの糸」と強くて生産性の低い「クモの糸」
大規模に商業化されている動物繊維として有名なのは、ヒツジから得られるウールとカイコから得られる絹です。
人類は何千年もの間、カイコの飼育によって絹を生産しており、その絹は動物繊維の一翼を担う存在になっているのです。
ただしカイコの糸は、近年登場してきた合成繊維ほど丈夫ではなく、簡単に切れてしまいます。
では、環境に優しいだけでなく丈夫な動物繊維は存在するのでしょうか。
ご存じの通り、「クモの糸」がこれに該当します。
ある種のクモの糸は、鉄や高強度の合成繊維に匹敵する強度を持っています。
しかしクモの糸を量産する手法が見つかっていないため、これまで利用されてきませんでした。
動物繊維の特性や生産の観点で見ると、カイコとクモは真逆の存在です。
カイコは狭い空間に何百匹いても平和に暮らすことができ、たくさんの糸を生産できますが、その糸は丈夫ではありません。
一方、クモには共食いの性質があります。
互いに攻撃するため、狭い空間では何百匹いたとしても最後には1.2匹しか残りません。
高強度の糸ですが、たくさん生産することはできないのです。
そこで研究チームは、大量に飼育できるカイコに、強力なクモの糸を紡がせることにしました。