遺伝子編集されたカイコがクモの糸を紡ぐ
これまでにも、カイコを遺伝子操作してクモの糸を作る試みは行われてきました。
しかし、クモの糸のタンパク質はカイコに比べて大きいことや、異なる生物であるクモの遺伝子をカイコに挿入すること自体の困難さから、なかなかこの研究は進展していませんでした。
そこで今回、ミー氏ら研究チームは、東アジアに生息するオニグモ(学名:Araneus ventricosus)の糸の小さなタンパク質を用いることにしました。
CRISPR-Cas9(遺伝子改変ツール)とカイコ受精卵への数十万回のマイクロインジェクション(遺伝子などを細胞内に注入する方法)によって、その小さな「クモの糸タンパク質遺伝子」をカイコのDNAに導入。糸を作り出す腺で発現できるようにしたのです。
マイクロインジェクションは、この研究において最も大きな課題の1つだったため、ミー氏は、遺伝子編集成功のサインを発見した時に大喜びしました。
彼によると、「結果を報告するために踊りながら教授のオフィスに駆け付け」「興奮で夜も眠れなかった」ようです。
また研究チームは、クモ糸タンパク質がカイコ腺内のタンパク質と適切に相互作用するために、クモ糸タンパク質に「局在化(タンパク質などが細胞内の特別な部位や領域に存在して機能すること)」修飾を施す必要がありましたが、これにも成功しました。
これによって、カイコの絹生産の他の側面を妨げることなく、クモの遺伝子を活性化させられます。
ミー氏は、「局在化の成功が、新しい糸の大規模な商業化につながると確信している」ようです。
これによって得られた繊維は、高い引張強度 (1,299 MPa) と靭性 (319 MJ/m3) を兼ね備えていました。
最も丈夫な天然のクモの糸とほぼ同じ強さであり、防弾チョッキなどに使用されるケブラーと比較しても約6倍でした。
しかも研究チームが予想していたよりもはるかに柔軟でした。
彼らによると、この繊維には生分解性があるため、まずは外科用縫合糸に使用される可能性があり、「年間3億件を超える世界的な需要に対応できる」とのこと。
また軍事、航空宇宙技術、医用生体工学、衣料品向けのスマート材料など、幅広い商業的可能性を秘めているようです。
研究が進むなら、クモのように強靭な糸を作るカイコを量産し、これら大きな需要と可能性を満たすことができるかもしれません。
チームは今後、天然アミノ酸と人工アミノ酸の両方からクモの糸を生み出す遺伝子組み換えカイコを開発する予定です。
これにより、「無限の可能性」を秘めたより強力な絹が誕生するかもしれません。