通勤時間が長いとメンタルヘルスが悪化しやすい
研究チームは、2万3415人の労働者(20~59歳)を対象に、2017年に実施された「第5回韓国労働条件調査(KWCS)」のデータを分析しました。
また参加者たちは、うつ病のスクリーニングツールとして広く受け入れられている「WHO-5精神的健康状態表」の質問に回答しており、チームはそこからメンタルヘルスの状態を分析しました。
「WHO-5精神的健康状態表」の中には、「明るく、楽しい気分で過ごした」「ぐっすりと休め、気持ちよくめざめた」「日常生活の中に、興味のあることがたくさんあった」などの項目があり、参加者は0~5段階で回答します。
研究チームは「WHO-5精神的健康状態表」の合計スコアが13点以下の人には「抑うつ症状がある」と定義しました。
その結果、今回の調査では1日の平均通勤時間は47分でした。
(他の調査では、より長い通勤時間が報告されています)
週5勤務で考えると、週あたり4時間を通勤に費やしていることになります。
また参加者の4分の1が、(医師の診察を受けたわけではないが)抑うつ症状を経験したと回答しました。
そして、通勤時間が長い(60分以上)参加者は、通勤時間が短い(30分未満)参加者と比べて、抑うつ症状を経験する確率が16%高いと分かりました。
加えて、(この研究では因果関係は示されていませんが)男性において、通勤時間が長いこととメンタルヘルスの悪化との関連性は、未婚で週52時間以上働き、子供のいない人で最も強かったようです。
女性の場合は、低所得、交替勤務(またはシフト勤務)、子供のいる人で最も強く関連していました。
研究チームも、「通勤時間の長さと抑うつ症状の悪化との関連は、低所得者層でより強いと分かりました」と述べています。
通勤時間が長く、これらの状況にある人は、特にメンタルヘルスに注意すべきなのかもしれません。
こうした結果が見られた理由について、研究チームは、「時間に余裕がなくなると、睡眠、趣味、その他の活動を通じてストレスを解消したり、肉体的疲労に対処したりする時間が不足する可能性がある」と語っています。
満員電車などでストレスを感じるのは当然ですが、比較的楽な通勤手段を用いていたとしても、それが長時間に及ぶものであるなら、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす恐れがあるのです。
ちなみにイギリス・ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の2018年の研究では、「通勤方法を自動車から自転車や徒歩に切り替えるならメンタルヘルスが向上する可能性がある」と報告されています。
とはいえ、無思慮に徒歩に切り替えてしまうなら、「1日に数時間も通勤に費やす」という悲惨な結果になりかねません。
メンタルヘルスの観点で理想なのは、「自宅と職場が近く、その短い距離を徒歩や自転車で移動する」ことなのかもしれませんね。
今回の研究は韓国のものですが、同じアジア圏で生活し、平均通勤時間が長い日本人にも当てはまる可能性は高いと考えられます。
こうした結果を見ると、「郊外に広い家を買ってゆったり過ごそう、通勤時間は…まあ目をつぶろう」という考え方は危険かもしれません。
また会社まで出向く必要のない作業に対しては、通勤が不要なテレワークを推進することがいかに重要かをこの報告は示しています。
そんなことは言われるまでもないと感じる人も多いかもしれませんが、国や企業がこうした問題を認識し対処してもらうためには、今回のような科学データがより多く報告される必要があるでしょう。