人類はいつから「マジックマッシュルーム」を使ってきたのか?
マジックマッシュルームとは、シロシビン(サイロシビンとも)という麻薬成分を含んだキノコ類の俗称です。
マジックマッシュルームを摂取すると、シロシビンが脳に作用し、中枢神経の興奮や麻痺を引き起こします。
その結果、摂取後15〜60分ほどで幻覚や酩酊状態、発熱、狂乱といった症状が現れ始めます。
マジックマッシュルームの歴史はとても古く、人類は何千年も前から宗教的な儀式目的で使用してきました。
約7000〜9000年前のアルジェリアの壁画には、マジックマッシュルームと見られるキノコを持った踊り子の絵が描かれています。
また南米のマヤ・アステカ文明でもマジックマッシュルームが流通しており、宗教儀式や病気の治療に使われたことがわかっています。
日本でも古くからマジックマッシュルームが知られていたようで、12世紀の『今昔物語』には「山で道に迷った女たちが空腹のためにキノコを食べたところ、踊りたくてしょうがなくなった」との逸話が記されています。
このようにマジックマッシュルームは世界中の温暖・多湿な場所に広く自生しており、人々に向精神薬として用いられてきました。
特に医療が発達した現代では、マジックマッシュルームの治療効果が注目を集めており、適量の摂取であれば、うつ病や不安症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の改善に効果があることが示されつつあります。
ただ、毒と薬は紙一重の存在です。マジックマッシュルームの使用による深刻な幻覚作用と、それに伴い事故を招くケースも数多く報告されています。
例えば、日本で確認されているケースだと、
・マジックマッシュルーム粉末の摂取後、強い幻覚作用で「空が飛べる」と思い込み、自宅の2階から飛び降りて重症(平成12年)
・睡眠薬と一緒にマジックマッシュルームを服用し、意識不明の重体(平成13年)
・生のマジックマッシュルームを食べた後、車の運転中に「自分は死ななければならない」という気持ちに駆り立てられ、他の車に追突して交通事故(平成13年)
などが知られています(東京都保健医療局)。
日本ではかつてマジックマッシュルームを入手すること自体は合法でしたが、こうした一連の事故・事件を受けて、2002年(平成14年)からシロシビンを含有するキノコ類を「麻薬原料植物」と認定し、故意の使用・所持を「麻薬および向精神薬取締法」によって厳罰化しました。
マジックマッシュルームの法規制は世界でも広く進んでいますが、それでも法の網をすり抜けて個人的に入手し、幻覚作用による事件・事故が続いています。
そして今回、オーストリアで報告されたケースは過去に前例のない悲惨なものでした。