6億年前の大分岐:クマムシはいつ“奇妙な仲間”と別れたのか?

現在の分子系統解析や化石記録にもとづく推定では、エクディソゾアは約6億年前にはすでに共通の祖先を持っていたと考えられています。
その後、カンブリア爆発期にあたる5億数千万年前頃から急速に多様化が進み、「パナルトプロダ(Panarthropoda)」と総称されるクマムシ(緩歩動物)、オンシフォラ(有爪動物)、節足動物がそれぞれの進化の道を歩み始めたとされます。
とくに、クマムシとオンシフォラが最初に分岐し、やや遅れて節足動物が別系統として独自の進化をたどったとする「タクトポダ(Tactopoda)仮説」が現在有力視されていますが、分岐順や年代については今も研究が続けられており、議論が残る分野でもあります。
分子時計解析では、クマムシとオンシフォラの共通祖先は5.5~6億年前にさかのぼるという推定があり、そこから今に至るクマムシとオンシフォラに分かれたと見られています。
一方、昆虫やクモ、甲殻類などを含む多彩な節足動物の祖先は、5.2~5.4億年前ごろに分岐した可能性が高く、ちょうどカンブリア爆発期の生物多様化のピークと重なります。
こうして同じ“脱皮”という共通の特徴をもつエクディソゾアの祖先は、環境の変化や新たな生態的ニッチの出現に応じて、クマムシ、オンシフォラ、そして節足動物へと次々に枝分かれしていったのです。
ただし、分子時計の結果には、化石の校正点や使用する遺伝子領域の違いが影響するため、分岐年代の推定値には研究によって多少の幅があります。
それでも、カンブリア期を中心とした膨大な進化の奔流の中で、これら3つのグループが共通の祖先から分岐したという大きな枠組みは、現在広く受け入れられています。
こうした理解は、後に述べるクマムシとオンシフォラの近縁関係がどのように成立してきたかを知る上で、重要な手がかりになっているのです。