最も速い視覚のNo. 1は?
人間の目では見落としてしまう一瞬の動き――それを完璧に捉えるのが、昆虫たちの目のすごさです。
私たちの視覚は、1秒間に約60フレームの情報を処理できるといわれています。
しかしハエやハチなどの昆虫は、なんと1秒間に数百フレームもの視覚情報を処理できるのです。
この“超高速視力”により、ハエにとっては私たちの動きがスローモーションのように見えるのです。
だからこそ、新聞紙で叩こうとしても、ハエはその前にするりと簡単に逃げることができるのです。
これは彼らの身体が小さく、視神経と脳との距離が短いため、電気信号の伝達速度が非常に速いことに由来します。
また、蛍光灯のような人間には連続光に見える光源も、昆虫にとっては点滅しているように見えるとされ、映画館に迷い込んだハエにとっては“超高速スライドショー”のような映像に見えているかもしれません。
動体視力のスピードにおいては、昆虫の右に出るものはいません。

視覚のトレードオフ
もちろん、これらの驚異的な視覚能力にも代償があります。
たとえば、シャコや昆虫のように複眼を持つ動物は、一つ一つの視覚ユニットが小さいため、視界の解像度は人間より劣ります。
シャープな画像ではなく、ピクセルの粗いモザイクのような視界を見ていると考えられています。
その点、人間の目は精密さ、色覚、動体視力のバランスが取れており、「視覚の万能型」とも言えるかもしれません。
「シャコのような目は面白いかもしれませんが、脳がエンドウ豆くらい小さくなってしまいますから」と研究者は冗談めかして語ります。
世界の動物たちは、それぞれの生態に合わせて“必要な視力”を進化させてきました。
そして、その多様性こそが、自然界の神秘の一つなのです。