高度に情報統合する子どもたち
科学者たちは、古くから幼い子供たちの言語学習の方法について研究しています。
しかし、未だにその謎は解明できていません。
新しい単語の意味を学ぼうとするとき、人はさまざまな情報源を統合して判断を下しています。
たとえば、私たちはCMで「結果にコミットする」なんて単語を聞いたとき、「え? 結果をどうするって?」と聞き慣れない単語に戸惑いつつも、そのとき見た内容や、CMだからどういうことをいいたいんだろうと推測することで、意味を推測します。
子どもたちの場合、彼らがよく知っているもの(コップや車など)と見たことのないものが置かれていれば、彼らはそこで聞いたことのない言葉と初めて見たものを対応させて考えるでしょう。
また、人と話すときのジェスチャーや、視線のような社会的手がかり、共通点などの認知的リソース、自身の持つ語彙も使用します。
その人との過去のやり取りの記憶から、相手の話す内容の文脈を推測するという方法も使うでしょう。
こうした複数の情報源の組み合わせが、言葉を理解する上での重要な手がかりになるのです。
今回の研究の著者であるマックス・プランク進化人類学研究所の研究者マニュエル・ボーン(Manuel Bohn)氏は、「言葉の学習には、常に複数の異なる情報源を統合することが必要なのです」と語っています。
では子どもたちは、世界に溢れる複雑な情報減をどのように統合しているのでしょうか?
今回の研究者は、子どもが言葉の意味を理解する際、ベイズ推定を介して情報のソースを統合するだろうと考えました。
ベイズ推定とは、観測された事実から、推定したい事柄を確率的に推尊するというものです。
ここで、現れるのは、子どもたちの各情報源に対する感受性の変化です。
そこで、今回の研究は異なる実験において、子どもたちがさまざまな情報源に対して見せる感受性を測定しました。
そして、すべての情報源が利用可能だった場合に、それらを組み合わせて何が起こるかということをコンピュータ上でシミュレーションしたのです。
研究者によると、このモデルは子どもたちが不慣れな言葉に出遭ったとき、単語とオブジェクトの関係や周囲の人々の言葉など複数の情報源を手がかりに、どうやって意味を類推して理解するか予測することができるのだといいます。
今回開発された理論システムを構築するデータは、哲学、発達心理学、および言語学の以前の研究をもとにして、2~5歳の148人の子供を対象にテストして収集されました。
そして、この数学モデルからの予想と、実際に子どもを対象にした実験の結果が一致するかどうかということを確認したのです。
実験では220人の子どもたちが集められ、アヒル・りんごなど関連するオブジェクトをおいたときに単語の意味をタブレット画面でどうやって推測するかを調べました。
ここでは、子どもたちの以前の知識、解説する大人からの手がかり(ジェスチャーや視線)、会話の文脈という3つの情報源についてテストすることができます。
こうしてモデルと予想と、実際の子どもたちの初めて聞く言葉とオブジェクトの選択に関する推論結果を比較したところ、それは非常によく一致していました。
こうした現実とよく一致した計算モデルが実現されたことは、対立する仮説を検証する際に、非常に役に立ちます。
これまでの研究は、子どもが言葉を学ぶときの学習方法のモデルと、さまざまなパターンで実験を行った場合のデータが分離してしまっていましたが、今回の結果はそれらを合わせて調査することを可能するといいます。
数学的なモデルを開発したという研究なので、難しくてよくわからない部分も多いですが、子どもは対話している相手のさまざまな情報を非常に注意深く観察し、そこから得られる情報をフルに活用して、知らない言葉の理解に努めています。
今の私たちが子供の頃ほど、うまく新しい言語に対処できない理由は、ひょっとすると真面目に相手の話を聞く姿勢なのかもしれません。