人工光合成システム
今回発表されたのは、人工光合成システムを利用した水素の生成プラントです。
これは、水を水素と酸素に分解させる光触媒パネル反応器と、生成された酸素と水素の混合気体を分離する分離膜を内蔵したガス分離モジュールで構成されています。
光触媒パネル反応器は、透明なガラスの中にチタン酸ストロンチウム光触媒シートと呼ばれるものが格納されています。
このシートとガラスの間の隙間(0.1mm)に水を流し込んで反応させ、水を分解させます。
この反応では太陽光のうちの紫外光しか利用しないため、太陽から水素(STH)エネルギー変換効率は1%程度と著しく低いのですが、設計が単純で安価であることが重要なポイントとなっています。
このパネルの光触媒シートはスプレーによる塗布で製造できるため、大量生産が可能で相互に連結でき、長期間の使用も可能という優れものです。
これは再生可能エネルギーを使った水素生成のコストが高いという問題を解決する可能性があります。
また、紫外光の量子収率ほぼ100%で水分解ができ、実際は非常に優れた特性を持っています。
こうして水を直接分解することで水素と酸素の混合ガスが生成されます。
これは分離モジュールによって水素と酸素に分けられ、水素だけを回収することにも成功したといいます。
化学に詳しい人なら、ここで気になるのが、水素と酸素の混合気体って危なくないの? という点です。
水素はよく知られているように可燃性の気体です。それが燃焼に利用される酸素と混ざると非常に危険な爆発物になります。
この混合気体の安全性は、研究者にとっても課題とされています。
しかし、今回のシステムを1年以上にわたって屋外試験した期間中、一度も自然発火・爆発の事故は発生しませんでした。
また、研究者は意図的に各システムの構成部に着火を行いましたが、いずれも破損や破壊は発生しませんでした。
容積3Lの混合気体を貯蔵するタンクも、内部を適切に仕切ることで着火による破壊は起こらないことが確認されたそうです。
つまり適切な設計がされていれば、爆発性の高い酸素と水素の混合気体も安全に貯蔵して運用できることが示されたのです。
今後研究グループは、さらに厳密な安全試験を行うとともに、現在は1%という低いSTHエネルギー変換効率を高める改善をしていくといいます。
効率については紫外光しか利用していないことが問題なので、可視光も利用できるように検討するようです。
化石資源に頼らずに、大規模に展開できるクリーンな水素工場が、いずれ日本から誕生するかもしれません。