「リンゴの木」の逸話って本当?
アイザック・ニュートンは1642年、イングランド東部にあるリンカンシャー州グランサム近郊のウールスソープ・マナーに生まれました。
ウールスソープ・マナーは母方の祖父宅であり、ニュートンの実家として知られます。
この実家の庭には実際に、セイヨウリンゴの一品種「ケントの花(Flower of Kent)」の木があったようです。
ニュートンは1665〜1667年の間に2度、実家に滞在していました。
その庭先で瞑想にふけっていたとき、ケントの花から1個のリンゴが落ちてきて、万有引力を発見するヒントとなったといいます。
これが、今に伝わる「リンゴの木」の逸話です。
彼自身による記述はありませんが、周囲の人たちがそれについて書き残しています。
最も有名なのは、友人であるウィリアム・ステュークリが1726年に、ニュートンから直接聞いた話として『MEMOIRS OF Sr. ISAAC NEWTONS life』に記録したものです。
そこには、次のような話があります。
夕食の後、私とニュートンは庭に出て、リンゴの木の下でお茶を飲んだ。
話の途中で、彼は「昔、万有引力のアイデアが浮かんだ状況とまったく同じだ」と言った。
彼は続けた。
「なぜリンゴはいつも地面にまっすぐ落ちるのか。考えにふけっていたそのとき、たまたま頭上からリンゴが落ちてきた。
疑いもなく、地球がリンゴを引き寄せていたのだ。物質の引く力の大元は地球の中心にあり、それ以外のところにはないに違いない」
また、フランスの哲学者ヴォルテール(1694-1778)は、1727年3月にニュートンが亡くなった折、イギリス訪問中にニュートンの姪から聞いた次の一説を『Essay on Epic Poetry of 1727』に残しています。
「アイザック・ニュートン卿は、実家の庭を歩いていた矢先、木からリンゴが落ちるのを見て万有引力の最初の思考を得たのである」
こうした記録からも、リンゴの木の逸話は実際にあった出来事と見られます。
しかし不幸なことに、時代を経るにつれ、話にさまざまな尾ひれが付いて、信頼できないものとなったのです。
たとえば、スイスの数学者であるオイラーは「リンゴがニュートンの頭に当たった」と何の根拠もなく書いています。
また、ドイツの数学者ガウスは「話が単純すぎる」といって、「本当のところは、ニュートンに着想の経緯をしつこく尋ねてきた馬鹿者をあしらうために、『リンゴが一つ鼻に落ちてきたのだ』と作り話をしたのだろう」と流布しました。
こうした話が積み重なって、どんどん嘘くさくなってきたのです。
確かに、逸話が100%本当だとは言えませんが、ニュートンがよく物思いにふけっていた実家の庭先にリンゴの木があったのも事実です。
では、その実家の庭の木はニュートン亡き後、どうなったのでしょうか?