来園者がいなくなったことで行動が変化
動物の中でも特に知能の高い霊長類は、ヒトに対して、様々に異なる多様な反応を示すことで知られています。
そのため、来園者の存在や柵ごしのやり取りは、霊長類の動物福祉を考える上で、とても重要です。
そこで研究チームは、イギリスにあるトゥイクロス動物園(Twycross Zoo)とノーズリー・サファリ(Knowsley Safari)の協力のもと、パンデミックに伴う閉園中の霊長類の行動を調査することにしました。
トゥイクロス動物園では、2020年11月~2021年1月の間に、ボノボ8頭、チンパンジー11頭、ニシローランドゴリラ6頭を対象とし、ノーズリー・サファリでは、2020年4月~9月の間に、アヌビスヒヒ192頭を対象にしています。
観察の結果、ボノボとゴリラは、来園者がいるときは仲間と過ごす時間が多いのに対し、来園者がいなくなると、一人で過ごす時間が増えていました。
また、ゴリラでは、1日の活動量が減り、休息時間が増えることも判明しています。
チンパンジーでは、来園者がいるときは食事量が多く、囲いに近づいたり、触れる機会も多かったのですが、来園者がいなくなった途端、食事量が減り、囲いとの接触も少なくなったのです。
一方、サファリパークのヒヒでは、来園者がいる間は性行動や支配行動が抑制されていたのですが、来園者がいなくなると、それらの行動が増えていました。
調査期間中に糞サンプルも分析していますが、いずれの霊長類でも、生理的パラメータに有意な変化は見られていません。
研究チームは「こうした行動変化が、個々の霊長類にとってプラスなのか、マイナスなのかを正確に述べるのは難しい」と話します。
たとえば、閉園中にボノボやゴリラの孤独な時間が増えたことは、ネガティブに捉えられるかもしれません。
しかし、定住性の強いゴリラにおいて、来園者の不在による休息時間の増加は、より野生下の状態に近く、ポジティブな影響が起きているとも考えられます。
ただ、チンパンジーやヒヒでは明確に、来園者がいなくなったことで刺激が足りなくなったと言えるようです。
この結果は、人がいなくなったことによる霊長類への影響が様々であることを示唆します。
ノッティンガム・トレント大学の動物福祉学者であるサマンサ・ウォード(Samantha Ward)氏は「霊長類は、動物園の中で最も認知能力の高いグループであり、来園者との相互作用やその影響はどうしても複雑になる」と説明します。
その一方で、今回の研究は、来園者の存在が霊長類に与える影響を理解する上で、貴重な機会となったようです。
ハーパーアダムス大学のエレン・ウィリアムズ(Ellen Williams)氏は「今後の研究では、動物園とサファリパークの両方で、より幅広い動物種への影響と、個々の動物間の反応の違いを調べることが出来るでしょう」と述べています。
水族館の魚たちは、人がいなくなったことで一様に元気を失ったようですが、より賢い霊長類の中には、悲しむ者もいれば、逆に喜んでいる者もいるのかもしれません。