19カ国の3878人を対象に「作り笑顔」の効果を実験!
研究主任のニコラス・コールズ(Nicholas Coles)氏は、今回のプロジェクトを始動する以前、「表情フィードバック仮説」に対し、半ば賛成で半ば反対の立場をとっていました。
ある先行研究では、コミック本をそのまま普通に読むよりも、歯でペンを挟み、笑顔と同じ表情をつくった状態で読んだ方が、被験者がコミックの内容を面白く感じるという結果が示されています。
しかし2016年に、17の研究機関がこの実験を再現しても、同じ結果は得られず、「表情フィードバック仮説」に再び疑問符が付けられました。
そこでコールズ氏は、この問題に決着をつけるべく、賛成派と反対派の両方の研究者を集めて、仮説の真偽を検討する国際プロジェクトチーム「Many Smiles Collaboration」を結成。
コールズ氏は「Twitterや雑誌の上で屁理屈をこねていても問題は解決されませんし、生産的でもありませんから、賛成派も反対派も一緒になって、全員が納得できる答えを見つけようと考えました」と話します。
プロジェクトチームは、笑顔の表情筋を活性化させるための3つの手法を用いて実験を開始。
19カ国から計3878人の被験者を各地で募り、以下の3つのグループに分けました。
1つ目は「意識的に口角をあげて笑顔をつくる」グループ、2つ目は「歯でペンを挟んで笑顔をつくる」グループ、3つ目は「笑顔の俳優の写真を見て真似する」グループです。
各グループの半数には、子犬や子猫、花、花火などの気分が明るくなるような画像を、もう半数には何も表示されていない画面を見せながら、笑顔を作ってもらいます。
また、これと同じタスクを(感情のない)中立的な表情でも行いました。
それから、この実験の目的を被験者に悟らせないため、他のいくつかの物理的タスクや、簡単な数学の問題を解くタスクも混ぜています。
各タスクの終了後、被験者には、自分がどのくらい幸福度を感じているかを評価してもらいました。
そして、3878人のデータを分析した結果、チームは「笑顔の俳優の表情を真似る」条件と「意識的に口角をあげて笑顔をつくる」条件で、主観的な幸福度が顕著に増加していることを発見したのです。
この2つの条件では、明確に「幸福度を高める効果」が見られ、「意識的な笑顔が心理面にポジティブな影響を与える」強い証拠が得られました。
その一方で、「ペンを歯で挟んで笑顔をつくる」条件では、被験者の気分に変化は見られませんでした。
これについて、コールズ氏は「ペンを歯で挟む状態では、自然な笑顔の表情筋をつくれない可能性がある」と指摘。
「たとえば、ペンを挟むことで、本物の笑顔には存在しない”歯をくいしばる”というイベントが発生し、それがポジティブな感情を抑制しているのかもしれない」と推測しました。
まだ、表情筋と感情面との関係は完全に解明されていませんが、「表情フィードバック仮説」に関する先行研究が、一歩進んで一歩下がるを繰り返してきたことを考えれば、大きな成果です。
コールズ氏は、今回の結果については次のように述べています。
「私たちの研究は、日頃の感情経験のメカニズムについて、何か根本的に重要なことを教えてくれています。
作り笑顔の効果は、うつ病のような精神疾患を克服できるほど強いものではありませんが、感情とは何か、それがどこから湧いてくるのかについて、有用な洞察を与えてくれるでしょう」
もし疲れたり、ストレスを感じたときは、作り笑いを浮かべることで、わずかでもリラックス効果が得られるかもしれません。