少量のアルコールでもレム睡眠を減少させ、睡眠の質が低下する
睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠という2種類の睡眠状態に分けられます。
レム睡眠では、その名称の元になった「急速眼球運動(REM:rapid eye movement)」や骨格筋活動の低下を特徴とします。
この間、脳は働いており、記憶の整理や定着が行われていますが、体は弛緩して休息状態にあります。
一方、ノンレム睡眠では、急速眼球運動を伴いません。
大脳が休息しており、ゆったりとした脳波がみられます。
このノンレム睡眠は、3段階(以前は4段階)に分かれており、特に「徐波睡眠(SWS)」と呼ばれるステージ3では、波長の長い脳波状態が中心となっています。
そして人の睡眠状態は、一晩の睡眠中に、レム睡眠からノンレム睡眠の3段階を周期的に繰り返しています。
ちなみに、一般的にはノンレム睡眠(特に徐波睡眠)が「深い睡眠」だと考えられています。
そのため浅い睡眠状態とされる「レム睡眠はノンレム睡眠へ向かう途中の状態であまり重要ではない」と考える人もいるかもしれませんが、それは間違いです。
スタンフォード大学の2020年の研究では、「睡眠時間を占めるレム睡眠の割合が5%減少するごとに、調査を行った12年間で中高年の死亡率が13%上昇する」とも報告されています。
未だ科学者たちはレム睡眠とその影響のメカニズムを完全には理解できていないものの、大切なのは、レム睡眠とノンレム睡眠の適切な周期だと考えています。
では、就寝前の飲酒によって睡眠状態の周期バランスはどのように変化するのでしょうか。
今回、マッカラー氏ら研究チームは、30人の成人ボランティアを集め、3日間連続の睡眠実験を2度にわたって実施しました。
参加者たちは2つのグループに分けられ、就寝の1時間前に、片方はアルコール飲料を飲み、もう片方はノンアルコール飲料を飲みました。
そして睡眠状態がどのように変化していったのか記録されました。
実験の結果、たった1杯のアルコール飲料を飲むだけで、3夜にわたって徐波睡眠が増加し、レム睡眠の持続時間が減少すると判明しました。
全体として参加者たちは、アルコールを摂取した後、いつもより早く眠りにつくことができましたが、レム睡眠の時間が短くなったため、睡眠の質が低下しました。
飲酒すると素早く眠れるものの、睡眠状態の周期バランスは崩れてしまい、睡眠の質が悪化していたのです。
この結果は、多くの人が体験してきたことと一致しています。
ちなみに今回の実験では、アルコール飲料を連夜飲んだとしても、影響を受けるレム睡眠の量には変化がありませんでした。
つまり人間の身体は、飲酒し続けたからといって、「アルコールに適応して、その悪影響を低減する」ということはないのです。
研究チームは、「就寝前の飲酒は、少量であったとしても、睡眠の質に悪影響を与える可能性がある」と結論付けています。
この結果を踏まえると、眠れない夜はお酒に頼るという習慣は考え直した方がいいかもしれません。
また毎晩就寝前に飲酒することが習慣になっていて、あまり疲れがとれない、日中ぼんやりしてしまうと感じている人は飲酒回数を減らすことで問題が解決するかもしれません。