見えない損失「プレゼンティーズム」の脅威
これまで、職場のメンタルヘルス問題が経済にどれほど影響を与えているのかを全国レベルで定量的に示す研究は限られていました。
多くの先行研究は、診断名ベース(例:うつ病と診断された人)での分析が中心であり、医療機関を受診していない人々の状態までは捉えきれていなかったのです。
特に注目されているのが「プレゼンティーズム(Presenteeism)」と呼ばれる現象です。
これは出勤こそしているものの、心身の不調によって通常のパフォーマンスを発揮できない状態を指します。
一見、仕事をしているように見えるため、企業や社会における損失としては軽視されがちですが、実際には欠勤(アブセンティーズム)よりも遥かに大きな影響を与えていると考えられています。

厚生労働省による調査では、日本の労働者の約8割が「仕事に関連する強い不安やストレスを感じている」と回答しており、ストレスチェック制度も2015年から法制化されました。
しかし現場での対策は進んでおらず、特に中小企業では対応が遅れているのが現状です。
その理由のひとつは、「メンタル不調が実際にどれほどの損失を生んでいるのか」が定量的に示されていなかったことにあります。