したい? したくない?
こうした傾向は何を意味するのでしょうか?
今回の研究に付随論説を書いたTwenge氏は、これを最近の子供は思春期に入るのは早いが、大人になるまでに時間がかかっていると述べています。
それは性行為だけに限定される話ではなく、仕事を開始する時期、実家を出るかどうかなど、社会へ進出する全般的な開始時期が遅くなってきているというのです。
また、Twenge氏はミレニアム世代(2000年以降に社会進出した世代)の次の世代(彼はこれを「iGen」と呼ぶ)は、友人との付き合いについても意欲的ではない、と語っています。
iGenは、以前の世代が同年齢で行っていたあらゆることを、行う機会が少なくなっています。最近の若い大人は、ソーシャルメディアをチェックして、ゲームをし、メールやチャットの会話に多大な時間を消費しています。
彼らは余暇を、対面ではなく、スマホを使ったコミュニケーションに使っています。直接会わないのだから性行為が減るのは当然でしょう。
なにより、今の若い大人は、性的なパートナーを探すことより、Youtubeで動画を楽しみ、InstagramやTwitterに投稿して好評を得るほうが楽しいと判断しているのかも知れません。
それがTwenge氏の意見です。
実際、面と向かって会っているときでさえ、多くの人々はスマホの画面に夢中で相手のことを見ていません。
直接会っていてもスマホに連絡が来たらどうするでしょう? 当然相手は放置されます。会っていても心の距離は遠いのです。
カルフォルニア州のセックスセラピストのDe Villers氏も同意見を述べています。
「レストランでみんな一緒にいるのに、それぞれがスマホの画面を覗き込んでいる光景は本当にショックです」
主任研究者であるスウェーデンのカロリンスカ研究所 Peter Ueda博士は「性的に活動的な人々の頻度減少と、全く成功をしない人たちの増加は区別する必要がある」と述べています。
性的に活動的で頻度が低下した人たちは、彼らの優先順位や趣味などとの関係を反映している可能性があります。
一方で性的に不活動な人たちは、そもそも性的に親密な関係を得られないという問題を反映している可能性があります。
傾向から考えられるのは、性行為以外の楽しみが増えたために、性行為の優先順位が下がるということと、そもそもパートナー探しを積極的に行わない人たちがいるということ。
また、収入面に不安があるために、積極的にパートナーを探せない人や、相手がいても先行きの不安からあまり性行為に意欲が湧かない人などがいるのかもしれません。
性行為は、人が生きる上での満足感や幸福感と密接に関連しており、性的関心の欠如がうつ病と関連しているという意見もあります。
近年は、無性愛(asexuality)という概念も流行しています。これは他者に性的な関心や魅力を感じないことを指していて、主にいい意味で使われる傾向があります。
しかし、それは単に多くの人が性行為を、人生の追求を妨害する面倒事と捉えている証かもしれません。
多くの若者が、性的なエネルギーのピークとなる時期に、性行為をしないのは全く良いことではないという議論があります。
一方で、本人が満足しているのであれば、性行為の有無は人生の良し悪しを評価する材料ではないという意見もあります。
人間は1人では生きていけない、と言いますが煩わしい人間関係ほど邪魔なものもないでしょう。
性行為よりソーシャルメディアでいいね! をもらうほうが快感が大きいなら、もはや性行為は人との関係の中で不要なものなのかも知れません。
この研究は、スウェーデンのカロリンスカ研究所 Peter Ueda博士を筆頭としたチームより発表され、論文は6月12日付で、米国医学協会が発行するオープンアクセス医学ジャーナル「JAMA Network Open」に掲載されています。
JAMA Network Open (2020). 10.1001/jamanetworkopen.2020.3833
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