3000万年に1秒もズレない「原子時計」が生まれるまで
「原子の1秒」と「うるう秒」
時間のズレを防ぐために科学が応用したのは「原子」でした。
1967年に国際度量衡委員会は「セシウム133原子が91億9263万1770回振動する時間」として1秒を再定義しました。
こうして新たに誕生した「原子時」が、地球の動きにもとづいた「天文時」に取って代わったのです。
それでも、数年に一度くらい予想外の天文学的異変が生じて、原子時と天文時がズレることがあります。
具体的には、100年で2〜3分程度のズレですから、日常生活には支障のないレベルです。
しかし、正確性を求める科学にはよくありません。
そこで1972年に「うるう秒」が導入されました。
地球の自転が変動して、原子時と天文時に0.9秒を上回る誤差が生じる場合は、1秒単位で原子時を調整します。
これが「うるう秒」です。
138億年たってもズレない「光格子時計」
原子時計はその後も進化をつづけ、近年では3000万年に1秒もくるわないほどの精度まで達しています。
さらに2015年には、東京大学により、原子時計を超える「光格子時計」なるものが開発されました。
光格子時計であれば、宇宙の年齢である138億年が経過しても、時間のズレは起きないのです。
そこまでして時間を正確に計る理由は何でしょう?
これには、アインシュタインが関係します。
アインシュタインは「光速に近づくと時間は遅く進む」と、「重力が強いところでは時間がゆっくり進む」という2つの相対性理論を唱えました。
ところが、人が歩く程度のスピードや、高低差1センチで生じる重力エネルギーの差による時間のズレは、原子時計ですら計れません。
しかし、光格子時計を使えば、この日常生活における時間のズレも捉えられるのです。
例えば、光格子時計をのせた車を道を走らせ、時間のズレを測定することで、重力エネルギーの差をマッピングできます。
重力に異常が見られる場所には、貴重な資源が隠されている可能性もありますし、火山の噴火や津波の到来も予知できるかもしれません。
日常生活に関係なさそうに見えて、実は「時間を正確に計る」ことはとても重要なことなのです。