ハエトリグサの微弱な磁場の検出に成功
ハエトリグサ(学名: Dionaea muscipula)は、トゲのついた2枚の葉っぱで虫を挟み込み、エサにする食虫植物です。
2枚の葉っぱ表面に「感覚毛」という刺激を感受する毛が生えており、これに虫が触れることで葉が閉じます。
最近の研究で、感覚毛に虫が触れてから30秒以内にもう一度触れると、合計の刺激量が閾値を越えて葉が閉じる、というメカニズムが解明されました。
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また、「この刺激を受ける過程で電気信号が発生している」と以前から指摘されています。
研究チームは、ハエトリグサが持つ磁場の存在を実証するため、刺激を受けている際の電気信号の変化を測定しました。
ハエトリグサは、感覚毛に直接触れる以外にも、浸透圧(食塩水をかける)や熱エネルギーによって刺激を受け取ることができます。
そこで今回は、余計な電気信号のノイズが発生するのを防ぐために、熱エネルギーで刺激を与えました。
測定装置に使用された「光ポンピング磁力計」は、センサー部にアルカリ原子の気体で満たされたガラスセルを使用し、磁場の局所的な微小変化に反応できます。
そのため、測定対象が小さくても十分な感度を保つことができ、MRI(核磁気共鳴画像法)やMEG(脳磁図)用のセンサーとしても期待されています。
測定の結果、チームは、ハエトリグサから最大0.5ピコテスラの磁束密度をもつ電気信号を検出することに成功しました。
これは地球の磁場が発するものより数百万倍も小さいですが、かつて植物においてこの電気信号が測定できた例はありません。
研究主任のアン・ファブリカント氏は「これまで電気信号が検出できなかったのは、植物が発する磁場の弱さが原因だとわかりました。
しかし今回は、原子磁力計を用いることで、この難点をクリアできたようです」と話します。
研究チームは今後、ハエトリグサ以外の植物を対象に、より小さな電気信号を検出することを目標にしています。
この非侵襲的技術は、将来的に、植物を傷つけることなく、作物の診断が必要な農業に応用される予定です。
農薬や害虫、急激な温度変化に対する電気信号の変化を見ることで、植物の健康を守れるようになるかもしれません。