「食の沼地」で生活する人々は、肥満関連のがん死亡率が最大77%高くなる
ベベル氏ら研究チームは、2010~2020年のアメリカ農務省の食品環境データ(Food Environment Atlas)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータを用いて調査を行いました。
そしてアメリカのすべての群(計3142群)のうち3038群を対象に、「食の砂漠」スコアと「食の沼地」スコアを算出し、それぞれが健康に及ぼす影響を分析しました。
今回の研究では、食の砂漠と食の沼地が次のように定義されました。
食の砂漠:スーパーマーケットから1.6km以上離れており、健康的な食品が不足している地域
食の沼地:スーパーマーケットから1.6km以上離れており、健康的な食品よりも不健康な食品(ファストフードなど)が多い地域
分析の結果、3038群のうち758群が、肥満に関連したがん(食道がん、腎臓がん、膵臓がんなど13種類)の死亡率が高い(人口10万人あたり71.8人以上)と判断されました。
これら758群では、高齢者・黒人住民・低所得世帯の割合が高く、成人の肥満率・糖尿病率も高いと分かりました。
また肥満関連のがん死亡率においては、健康的な食品を入手しやすい地域よりも、食の砂漠スコアが高い群では死亡率が59%高く、食の沼地スコアが高い群では死亡率が77%も高いと分かりました。
そしてこれらの地域に住む人々は、容易に居住地を変えることができません。
一般的に「健康は”何を食べるか”という食品の選択で改善できる」と考えられています。
しかし今回の結果は、地域によってはその選択肢すら与えられず、不健康で死亡リスクの高い食生活を強制されていると分かります。
そのため、公衆衛生に関わる研究者たちは、「郵便番号と近隣環境(つまり居住地)がDNAと同じくらい健康状態と関連している、という認識が広まりつつある」と述べています。
私たちにとって「どこに住むか(どこで生まれるか)」という条件は、「誰から生まれるか」という条件と同じくらい、自分の健康状態に強い影響を及ぼすというのです。
世界中で見られる「食の砂漠」「食の沼地」問題を改善するには、国家規模の介入が必要であり、現段階ではその実現も見えていません。
もし、自分の将来や子供たちの健康に気を付けたいなら、「何を食べるか」と考える前に、「どこに住むか、どんな食品を入手できるか」と考えるべきなのかもしれません。
海外に比べ日本は生鮮食品を扱う優良な店舗が多く存在しますが、一人暮らしの人は生鮮食品を買って毎回料理するより、コンビニやファストフード店を利用しがちでしょう。
またこまめに買い物に行くことが難しい忙しい人も、保存しづらい生鮮食品よりカップラーメンやスナック菓子に頼りがちです。
これらも同様の危険をもたらすと考えられるので、注意する必要があるでしょう。
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