コバンザメからヒントを得た「胃の中でも剥がれない薬用デバイス」

MUSASは、シリコン製の柔らかいリップと呼ばれる縁部、温度で変形するラメラ(傾斜板)、そして装置全体を支える“バックボーン(背骨)”で構成されています。
これはカプセルサイズの装置で、飲み込んだ後、体温に反応して自動的に展開し、胃や腸の柔らかい粘膜に張り付くことができます。
電池やモーターなどの動力源を一切使わず、形状記憶合金の温度応答性を利用しています。
その構造はまさに“コバンザメの吸盤”そのもの。
多区画に分かれたラメラが独立して動くことで、柔らかく濡れた粘膜にも強く吸着します。

さらに、ラメラ先端のスピンル状のマイクロニードルが粘膜に浅く刺入し、物理的に保持されます。
MITの研究チームはこのMUSASを使って、いくつかの動物実験を行いました。
たとえば、魚に装着した温度センサー付きMUSASは、高速で泳いでも外れず、水中での生体モニタリングに十分耐えることが確認されました。
また、ブタの食道に装着して胃液の逆流を感知するセンサーを搭載した実験でも、従来のチューブ方式(鼻や口から通すもの)より遥かに快適で持続的な観測が可能でした。

さらに、HIVの予防薬やRNAワクチンをMUSASに組み込むことで、最大3週間にわたり体内に保持され、薬剤はその間に数日から1週間かけて持続的に放出されました。
胃の中はpH1〜2という強酸性環境ですが、MUSASはそうした条件下でも吸着力を維持できるため、「流されない薬」を実現する可能性を持っているのです。
将来的には、MUSASを使ってホルモン活性を刺激する電気パルスを送ることで、食欲のコントロールや代謝調整といった新しい治療法にもつながると考えられています。
たとえ蔑称で有名な「コバンザメ」であっても、彼らの体には画期的な秘密が隠されていたのです。
胃食道逆流持ちとしてはこれで胃の入口をセンシングして、逆流が起きたら筋肉に信号を送って胃の入口を閉鎖する、そんなデバイスでくれると嬉しいなって思いますね。
薬で同じことは達成できますが、薬だとそれ以外の作用も出てしまいますからね。