カゲロウは食も眠りも捨てた
成虫となったカゲロウは弱くはかない存在なのはさきほど述べたとおりです。
しかし弱肉強食の世界で単に弱くあり続けることは許されません。
それはカゲロウも同じ。
3億5000万年も弱々しいまま命脈を保ってきたカゲロウには想像もつかないような強みがなければ、帳尻があわないのです。
ではその強みとは何か?
それが冒頭にも述べた、口を捨てて食べないことでした。
口がなければエサを食べられず直ぐ死ぬという圧倒的な弱さをうみだします。
しかしカゲロウはその弱さの中に活路を見出しました。
つまり、食べる必要がなければエサを探す時間も労力も、その間に天敵に襲われる危険もカットできるという険しい道です。
同様に、カゲロウは睡眠の無駄を省きました。
最新の研究によって脳がないヒドラやサンゴのような原始的な動物にも睡眠が必要であることが判明しましたが、寿命が数時間しかないカゲロウにとって睡眠は不要です。
食事と睡眠を切り捨ててまでカゲロウが求めたのは何か?
それは性欲でした。
水辺から這い出て二度の脱皮を経て成虫となったカゲロウは水面の上を飛び回りながら、文字通り寝食を忘れて交尾を繰り返します。
交尾を終えると、オスはそのまま水面に落ちて死にます。
一方、メスは水面に着地して卵を産みます。
卵は水の比重より僅かに重く、産み落とされると水底に沈んでいきます。
もちろん、このときのカゲロウは魚に取って絶好の獲物です。
しかしカゲロウは群れで一斉に成虫になって交尾をするために、何匹かは生き残って卵を投下できるのです。
先に死んで水面に浮いているオスも、デコイとしてなお役立ちます。