なじみの植物は「肉食」だった!
Triantha occidentalis(以下、T. occidentalis)は、北米大陸の西海岸や内陸部、カナダのバンクーバーの近郊など、広い範囲に見られます。
1879年の記載以来、ふつうの植物と考えられていましたが、その生息環境は、食虫植物によく見られる沼地や湿地帯です。
こうした土壌には、窒素やリン、ミネラルといった栄養分が不足しており、地中から栄養を補給する植物は生きていけません。
そこで虫をおびき寄せて捕食する食虫植物が育つのです。
その点で、T. occidentalisには食虫植物である資格が十分にありました。
さらに、ブリティッシュコロンビア大学の植物学者であるシーン・グラハム氏が、植物の遺伝子データについての作業をしていたところ、T. occidentalisの遺伝子に、食虫植物で見られるのと同じ変異の存在が明らかになったのです。
これに加えて、T. occidentalisの茎には粘着性があって、小さな虫がひっついていることが多々ありました。
そこで研究チームは、T. occidentalisが食虫植物であるか確かめるべく、実験を開始。
自然に存在する窒素の安定同位体である「窒素15」をミバエに注入して、それをT. occidentalisの茎に付着させ、少し時間を置いてから、植物に含まれる窒素を調べました。
その結果、ミバエに注入した窒素15が見つかり、T. occidentalisが虫から栄養分を取り込んでいることが判明したのです。
T. occidentalisは推定で、窒素の約64%を虫から摂取しているとのこと。
さらに、茎に生えている粘着性の微毛が、消化酵素の「ホスファターゼ」を分泌することも分かりました。
ホスファターゼは、他種の食虫植物も用いている分解酵素です。
一方で、T. occidentalisは、ふつうの食虫植物ではありません。
食虫植物の多くは、一般に、花粉を媒介するための花で食用の虫を捕らえないようにしています。
例えば、ハエトリグサは、非常に長い茎を伸ばして、その先に花をつけることで、送粉者の昆虫がトラップにかからないようにします。
ところが、T. occidentalisの花は、茎のすぐ上に咲いているのです。
これでは送粉者の虫があやまって茎にくっついてしまいかねません。
しかし調査の結果、T. occidentalisの茎の粘着性は、送粉者として働くハチやチョウを捕らえるには弱すぎる反面、ミバエなどの小さな虫を固着させるには適度な粘着度となっていたのです。
こうした工夫は、他の食虫植物には見られません。
グラハム氏は「都市近郊に生息する食虫植物を見逃していたことは、私たち研究者にとって非常にエキサイティングなことです。
世の中には、より多くの食虫植物が様々なあり方で存在しているかもしれない」と話しています。