森林伐採により「翅が消えた」?
本研究では、ニュージーランド南島部の固有種である、カワゲラ目の「Zelandoperla maungatuaensis(以下、Z. maungatuaensis)」に注目しました。
本種は、分布場所により翅の有無が変わり、おもに低地の森林地帯では翅のある個体が、高地のはげ山では翅のない個体が見られます。
ところが、近年のフィールドワークで、低地でも翅のないZ. maungatuaensisが散見されるようになっていました。
そこで研究チームは現地に赴き、低地の森林や高地のはげ山など、5つの異なるポイントでZ. maungatuaensisを採集。
それぞれの分布位置を記録しつつ、生息環境による形態の違いを比較しました。
その結果、たしかに高山地帯には翅なし個体がいましたが、十分な低地でも翅のない個体が見つかったのです。
翅の有無と生息環境を照らし合わせたところ、翅のない原因は、標高の違いよりも、森林の減少にあることが分かりました。
高山地帯はもともと、森林限界の上にあるために木が生えていませんでしたが、近年深刻化する森林伐採により、低地でもはげ上がった場所が急増しています。
翅のないZ. maungatuaensisは、そういった場所に分布していたのです。
翅のない昆虫は、ダーウィンも指摘したように、小さな島や高山でよく見られます。
小さな島では、翅があると風にさらわれやすく、海に落ちてしまう確率が高くなります。背中にパラシュートがついている状態をイメージすると分かりやすいかもしれません。
高山では、昆虫を保護する森林がないため、強い風に飛ばされやすくなります。
今回のケースも、森林がなくなって風雨にさらされる機会が増えたことが原因と見られます。
チームはまた、採集した個体の遺伝子解析を実施。
その結果、高山に分布していた翅なし個体は、低地の翅あり個体とDNAが大きく異なり、かなりの期間、独自の進化を遂げていたことが分かりました。
一方で、森林伐採地にいた翅なし個体は、低地の翅あり個体とDNAに差がほとんどなく、ごく短いスパンで急速に翅を失くしたと推測されています。
研究主任のブロディー・フォスター氏は「生物の進化はふつう、数千年単位でゆっくり進みますが、Z. maungatuaensisは、わずか数百年で翅を失くす方向に進化していた」と驚きをあらわにしました。
また、フォスター氏は「翅を失くしたことで、別の危機的な事態が起こるかもしれない」と話します。
それは一体、何でしょうか?