若者の生産性低下を引き起こす睡眠障害
オーストラリア・フリンダース医療センター(Flinders Medical Centre)のエイミー・レイノルズ氏らは22歳の若者554人に対して睡眠時に検査を行い、睡眠障害か否か判定しました。
その結果、検査を受けた若者の21.7%、つまり5人に1人が睡眠障害と診断されたのです。
そのうち8割近くが不眠症で、残りは無呼吸性症候群やむずむず脚症候群でした。
無呼吸性症候群は主に酷いいびきの原因ともされ、睡眠中に喉が塞がり呼吸が止まってしまう症状です。むずむず脚症候群はじっとしていると脚がむずむずする、脚を動かしたくて我慢できなくなる、かきむしりたくなるなどの症状で、入眠時に不快感を起こすことが多いとされます。
このように睡眠障害と診断された若者の多くは過去に睡眠障害という診断を受けたことがありませんでした。
この研究はオーストラリア医学ジャーナルに2023年7月10日付けで掲載されています。
睡眠不足と睡眠障害の違い
ここでまず睡眠不足と睡眠障害の違いについておさらいしておきましょう。
「睡眠障害」とは、十分な時間や落ち着いた空間など、眠れる環境が整っていても眠れないことを指します。
日本の診断基準では週に2回以上のペースで眠れず、それが1カ月以上続くと不眠症です。
睡眠障害には睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群なども含まれており、睡眠の時間(量)だけでなく、睡眠時の呼吸の状態や入眠時の不快感など睡眠の質も考慮されます。
体力がなくなりはじめた中高年の患者の場合は睡眠時の異常に気づきやすく、自ら病院にかかり診断を受ける事が多いのですが、体力がある若者は病気とまでは考えず自己判断で睡眠障害の適切なケアを受けないケースが少なくありません。
また、最初は眠る時間を確保できないことによる単純な睡眠不足でも、慢性化すると体内時計が乱れてしまい、眠りたくても眠れない不眠症へとつながってしまうケースもあります。
睡眠障害で生産性損失が4倍に?!
同氏らは若者たちにWHOの労働パフォーマンス調査票(HPQ)に記入してもらうことで、労働時間や労働時のパフォーマンスを調査しました。
HPQでは働いた時間を記入するだけでなく、自らの労働時の生産性がどう評価されていると思うか記入します。
この評価は10段階で、10が「もっとも優れたパフォーマンス」を指します。
このため、同研究では記入者たちの記入した段階評価を10から引き、それらをパーセンテージに換算して労働時間に積算することで、労働生産性損失が算出されました。
たとえば、ある記入者が10段階中7と記入した場合、その数字を10から引くと3になり、パーセンテージに変換すると30%となります。
その記入者の労働時間が8時間だった場合、この30%を積算した2.4時間が労働生産性損失になるという形です。
そのように算出した年間の生産性損失の中央値を比較すると、睡眠障害を持たない若者は1週間程度でしたが、睡眠障害を持つ若者は4週間程度となっていました。
つまり、睡眠障害を持つ若者は持たない若者にくらべ、4倍もの生産性損失を出してしまっているのです。
なお、この生産性の低下は欠勤や遅刻、早退など単純な労働時間の減少によるものではなく、労働時間に積算されたパフォーマンスを表すパーセンテージによるものでした。
すなわち、プレゼンティーイズム(心身の不調を抱えながらの労働)が睡眠障害を持つ若者の生産性に大きく影響しているということです。
若者の場合、睡眠障害によって欠勤や遅刻、早退などには至らないまでも、心身に何かしらの不調を抱いた状態で仕事しなければならず、集中力を欠いたり作業が遅くなったりすると考えられます。
さらに同氏は睡眠障害による問題が生産性低下のみならず、メンタルヘルスにも影響することを指摘しています。