緑化の原因は「富栄養化」と「藍藻の大量発生」だった
ヴィクトリア湖が緑に染まった原因は、ひとことで言えば「人間活動による富栄養化」です。
富栄養化とは、湖や川にリンや窒素などの栄養塩が過剰に流れ込むことで、植物プランクトンや藻類が爆発的に繁殖し、水質が悪化する現象のことを指します。
ムワンザ湾で採取された湖底の堆積物を分析した研究チームは、1920年頃からリンや有機物の濃度が急激に上昇し、光合成色素(クロロフィルなど)が過去の10倍以上に増加したことを突き止めました。
これはつまり、100年前からすでに人間の排水や農業肥料の影響で湖の栄養バランスが崩れ始めていたということを意味します。
さらに2022〜2023年に実施されたメタゲノム解析では、ウィナム湾の広範な地点において藍藻が支配的に出現していることが確認されました。
特に注目すべきは、サンプルの中で藍藻がクロロフィル全体の55%以上を占める地点が複数存在するということです。

この「緑色の藻」は、水を濁らせるだけでなく、水中の酸素を奪い、魚の住処を減らし、漁業にも打撃を与えました。
一部では酸素が不足することで生命の維持が難しい「デッドゾーン」が形成されるほどです。
そして、もっと深刻なのは人間の健康へのリスクです。
研究では、藍藻がミクロシスチン(肝毒性をもつ藍藻毒素)をかなりの量生成していることが明らかになっています。
ミクロシスチンは肝臓に障害を引き起こすことで知られ、長期的な摂取は肝がんのリスクを高めるとも指摘されています。
実際、ヴィクトリア湖の周辺では、湖の水をろ過せずに飲用に使う地域が多く、子どもや高齢者を中心に健康被害のリスクが非常に高まっていると専門家は警鐘を鳴らしています。
このように、緑色の湖面は「自然の変化」ではなく、まさに人類の選択の積み重ねが引き起こした人工的な異変だったのです。
ではこのまま湖は緑に沈んでいくのでしょうか?
そうならないために、現在科学者たちはこの問題に取り組んでいます。