国立科学博物館とミャンマー森林研究所の共同研究プロジェクトにより、ミャンマーでは初となる「メクラシロアリコガネ属」のコガネムシが発見されました。
その後、九州大学総合研究博物館らの調査により、そのコガネムシが新種であったことが判明しています。
学名は、ギリシャ神話に登場する「イカロス」にちなみ、「イカロスメクラシロアリコガネ(Termitotrox icarus)」と命名されました。
しかも、イカロスメクラシロアリコガネ(以下、イカロス)は、シロアリに自らを運ばせるという驚きの習性を持っているようです。
シロアリを騙して運搬させていた⁈
イカロスは、微小な羽毛状の毛束を持つ点や背中側から見るとかなり細長い形をしている点から、一般的なメクラシロアリコガネ属とは容易に見分けがつきます。
サイズも非常に小さく、全長1.5〜1.9ミリほどしかありません。
イカロスの生息場所は、シロアリの巣の中です。
シロアリの巣内には、他種の昆虫が共生していることがよくあるのですが、複雑な環境のため、共生関係についてはあまり調査されていませんでした。
しかし、本研究により、イカロスとシロアリとの驚くべき共生関係が明らかになっています。
イカロスは、後翅が退化しているため、空を飛んでの移動ができません。そこで、自力で歩く以外に、シロアリに運んでもらい巣内を移動していたのです。
この習性を「運搬共生」と呼びます。
それにしても、なぜイカロスはシロアリに食べられないで済むのでしょうか。
その理由は、シロアリ側のある習性にありました。
シロアリには、もともと自分たちの卵や幼虫をアゴで挟んで運ぶ習性があります。研究チームによると「イカロスはおそらく、卵や幼虫のように振る舞うことでシロアリを騙し、自分たちを運ばせている」というのです。
こうした行動は前例がなく、メクラシロアリコガネ属では初となっています。
九州大学の研究チームは「シロアリによって運ばれる新種の姿を見たときには、驚きのあまり2ミリほどしかないこの虫が、はるかに巨大に見えました。シロアリの巣内には、私達がまだ知らない世界が広がっています。これからも地道な調査を重ね、昆虫の面白さを明らかにしていきたいと思っています」と述べました。
小さな体で大自然を生き抜くには、こうした巧みな知恵が必要です。まさにイカロスは、昆虫界の「小さな巨人」と呼ぶにふさわしいでしょう。
研究の詳細は、7月28日付けで「Acta Entomologica Musei Nationalis Prague」に掲載されました。
https://www.aemnp.eu/acta-entomologica/60-2/1852/termitotrox-icarus-sp-nov-coleoptera-scarabaeidae-a-new-termitophilous-beetle-from-myanmar-with-observations-of-carrying-behavior-by-host-termites.html