白い背景の上にとまった、灰色のしま模様の体と赤茶色の大きな目をもつハエ No.0033

ナゾロジー図鑑 ・ 生き物

ハエ

Muscomorpha

飛ぶための羽は2枚。後ろの羽は、回転を感じるセンサーに。
死がいやふんを分解し、花粉も運ぶ身近な虫。

ナゾロジーの記事
38本
飛ぶための羽(後ろの羽は平均棍)
2枚
日本にいるハエのなかま
約3,000種

ハエは、蚊と同じハエ目(双翅目)の昆虫で、日本だけで3,000種近くがいます。飛ぶための羽は2枚で、後ろの羽は体の回転を感じる「平均棍」に変わっています。病原体を運ぶ害虫もいる一方、分解者や花粉の運び手、研究のモデル生物としても大切です。

図鑑データ

分類
昆虫 › ハエ目(双翅目)› ハエ下目のなかま(イエバエ科・クロバエ科・ニクバエ科・ショウジョウバエ科など、たくさんの科)
学名
Muscomorpha(ハエ下目)。ハエ目全体の学名は Diptera
英名
fly(フライ)
漢字
蠅(略した形は蝿)
種の数
日本だけで60ほどの科に3,000種近く。ハエ目全体では、世界で15万種以上
大きさ
イエバエは体長6〜7mmほど、キイロショウジョウバエは3mm前後
体のつくり
飛ぶための羽は前の2枚だけで、後ろの羽は平均棍に変わった。大きな複眼をもち、脚の先で味がわかる
すみか
地球上のほとんどの陸地。イエバエは人について世界中に広がった
食べもの
おとなは花の蜜や果物などの糖分と、死がい・ふん・体液などのたんぱく質。幼虫の多くは腐ったものを食べる
育ち方
卵 → 幼虫(ウジ)→ さなぎ(囲蛹)→ 成虫(完全変態)
寿命
イエバエのおとなは、ふつう2〜4週間。条件がよければ卵から7〜10日でおとなになる
人とのかかわり
病原体を運ぶ衛生害虫や農作物の害虫がいる一方、分解者や花粉の運び手、研究のモデル生物としても大切

ハエとは(何類? 何科? 蚊やアブとのちがい)

ハエは、昆虫の「ハエ目(双翅目=そうしもく)」に入る虫です。ハエ目には、蚊やガガンボ、アブなどもふくまれ、世界で15万種以上が知られています。そのなかで、ふつう「ハエ」と呼ばれるのは「ハエ下目(かもく)」というグループのなかまです。日本だけでも、60ほどの科に3,000種近くがいます。

つまり「ハエ」は、1つの種や科の名前ではありません。イエバエ科、クロバエ科、ニクバエ科、ショウジョウバエ科、ミバエ科など、たくさんの科をまとめた呼び名です。英語では fly(フライ)といいます。ハエ目の学名 Diptera は、ギリシャ語で「2枚の羽」という意味です。

白い背景の上にとまった、灰色のしま模様の体と赤茶色の大きな目をもつハエ
イエバエ写真: USDA(アメリカ農務省)(CC BY 2.0) / Wikimedia Commons

蚊やアブとのちがい

蚊は、ハエと同じハエ目に入る親せきです。ハエ目は昔から、蚊やガガンボのように体が細く触角の長いなかまと、ハエやアブのように体ががっしりして触角の短いなかまに分けられてきました。

アブとハエの区別は、名前だけでははっきりしません。ふつう「アブ」と呼ぶのはハエとは別のグループですが、花に集まるハナアブはハエのなかまです。反対に、アシナガバエは名前に「ハエ」とつきますが、アブのなかまに入ります。

身近なハエの種類(「コバエ」とは?)

ハエ下目のなかでも、体長5mmに満たない小さな種が多いグループには、ショウジョウバエなど、ふだん「コバエ」と呼ばれるハエの多くがふくまれます。一方、イエバエやクロバエ、ニクバエのような大きめの「ハエらしいハエ」は、別のグループ(弁翅亜節=べんしあせつ)にまとまっています。

  • イエバエ:家の中や畜舎でよく見る、灰色のハエです。胸の背中に4本の黒いすじがあります。
  • クロバエ・キンバエ:クロバエ科のハエです。おとなは青や緑、黒の金属のようなつやをもつものが多く、幼虫は動物のふんや死がいなどで育ちます。
  • ニクバエ:イエバエより少し大きく、胸に3本のすじがあります。かえる直前の幼虫が入った卵や、かえったばかりの幼虫を、動物の死がいなどに産みつけます。
  • ショウジョウバエ:多くは体長3mm前後の小さなハエです。熟した果物や樹液に集まります。
  • ミバエ:植物の中に卵を産むハエで、ウリミバエなど農作物の大きな害虫になる種がいます。
  • チョウバエ:風呂場や台所の排水口のまわりで見られる小さな虫です。名前に「ハエ」とつきますが、イエバエなどとは別のグループです(あとで説明します)。

紫色の花びらの上にとまった、緑色に光るハエ
緑に光るキンバエのなかま写真: Calibas(Public domain) / Wikimedia Commons

緑の葉にとまった、灰色と黒のしま模様の体に赤い目をもつハエ
ニクバエのなかま写真: Christian Ferrer(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

大きさと体のつくり(羽は何枚?)

よく見るイエバエは体長6〜7mmほど、キイロショウジョウバエは3mm前後です。ハエ目全体では、体長0.4mmしかない種から、7cmになる大きな種(Gauromydas heros)までいます。

  • 目:頭の左右に大きな複眼が2つあり、多くの種では、頭のてっぺんに小さな単眼が3つあります。イエバエでは、左右の複眼のあいだが、オスではせまく、メスでは広くなっています。
  • 口:イエバエの口は、先がスポンジのようになっていて、細いみぞで液体を吸いとります。かたい食べ物には唾液をかけてやわらかくしてから吸います。
  • 羽:飛ぶための羽は、前の2枚(1対)だけです。後ろの羽は「平均棍(へいきんこん)」という小さな器官に変わっています。
  • 脚:6本の脚の先には1対のつめと、くっつくためのやわらかいパッドがあります。イエバエは、つるつるの壁や天井も歩けます。
赤茶色の大きな2つの複眼と、毛の生えた口元が正面から写ったハエの顔
クロバエのなかまの顔写真: JJ Harrison(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

羽は何枚? 平均棍のはたらき

多くの昆虫は4枚の羽をもちますが、ハエ目の昆虫で見える羽は2枚だけです。後ろの羽は、先がふくらんだ細い棒のような「平均棍」になっていて、飛ぶときに前の羽と同じ速さで振動します。

平均棍は、体が回転したことを感じとるセンサーで、飛行機などのジャイロスコープにたとえられます。左右の平均棍をどちらもとりのぞくと、ハエ目の昆虫はまったく飛べなくなります。日本語の名前は、体のバランスをとる器官だと考えられたことに由来します。実際には、おもりのように左右のつり合いをとるのではなく、体の回転を感じとって姿勢を保つのを助けています。

毛の生えたハエの胸の横に、先の丸い小さな棒状の器官が見える青白い拡大写真
後ろの羽が変わった「平均棍」写真: CSIRO(CC BY 3.0) / Wikimedia Commons

平均棍のおかげで、ハエはとても器用に飛べます。空中で止まっているようなホバリングができる種も多くいます。ハエはまっすぐ飛んでは急に向きを変えることをくり返し、90度の方向転換を50ミリ秒(0.05秒)ほどでやってのけます。天井にとまるときのイエバエは、天井に向かってまっすぐ飛び、とまる直前に体を半回転させて、6本の脚を天井に向けます。

手をすり合わせるのはなぜ?(脚で味がわかる)

小林一茶は「やれ打つな 蠅が手をする 足をする」とよみました。ハエが前脚をすり合わせるしぐさは、昔から人の目をひいてきました。

じつはハエの脚の先には、味を感じる器官があります。イエバエは、砂糖などの上を歩くだけで、それが食べ物だとわかります。脚をすり合わせるのは脚をきれいにするためで、そうすることで、次に歩く場所の味を新しく感じとれるようになります。メスはおなかの先でも味を感じとり、卵を産むのにふさわしい場所かどうかを確かめています。

目と反応の速さ(なぜたたけない?)

ハエをたたこうとしても、なかなか当たりません。その理由の一つは目にあります。イエバエは、目で見た情報を人よりずっと速く処理しています。光の点滅がちらついて見えなくなる速さ(フリッカー融合頻度)が人より高く、人の動きはスローモーションのように見えていると考えられています。そのため、つかまえようとする手やたたこうとする動きに気づいて、よけられるのです。

頭のてっぺんの単眼は明るさの変化を感じとり、近づいてくるものにすばやく反応するのに役立っています。ハエ目のなかには、カメラのフラッシュに5ミリ秒もかからずに反応して飛び立つアシナガバエのなかま(Condylostylus属)もいます。ただし、長い距離を飛び続けるときの速さは、それほど速くありません。

ナゾロジーでくわしくハエを叩くのはなぜこんなに難しいの?世界を捉える速度「フリッカー融合頻度」がヒトと違っていた

どこにいて、何を食べる?(なぜたかる?)

ハエ目の昆虫は、地球上のほとんどの陸地のすみかで見られます。とくにイエバエは、世界でもっとも広く分布する昆虫の一つとされ、人について世界中に広がりました。北極圏から熱帯まで、人がくらしているところなら、ほぼどこにでもいます。

ハエのおとな(成虫)の多くは、花の蜜や果物、アブラムシが出す甘い液(甘露)から糖分をとって、エネルギーにしています。一方で、卵巣や精巣を育てるには、たんぱく質が必要です。そのため、動物の死がいやふん、腐った植物、人や家畜の涙やだ液、傷口からしみ出る液などにも集まります。

ハエが腐ったものやうんちにたかるのは、そこが食べ物の場所であり、卵を産む場所でもあるからです。イエバエのメスは、生ごみや動物の死がい、ふんなどの腐りかけたものに卵を産み、かえった幼虫はそこで食べて育ちます。クロバエのなかまは、1.6kmもはなれたところから動物の死がいのにおいをかぎつけることができ、死がいに最初にやってくる昆虫になることが多いとされます。

食べ物の好みは種によってちがいます。キイロショウジョウバエは、熟した果物や樹液と、そこで育つ酵母を食べます。酵母は果実などの糖をアルコールに変えるので、ショウジョウバエはお酒や酢のにおいに誘われると考えられています。和名は、目が赤く、お酒に集まることから、顔の赤い酒好きの妖怪「猩々(しょうじょう)」にちなんでつけられました。

バナナの上で口をのばしている、赤い目をした小さな茶色のハエ
バナナをなめるキイロショウジョウバエ写真: Sanjay Acharya(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

家に入ってくるのはなぜ? どこから来る?

イエバエには、自分から人の家に入りこむ性質があります。近いなかまの多くは、大きな草食動物の体で涙や傷口の液をなめ、そのふんに卵を産んでくらしています。イエバエは、そうしたくらしから人の家に入りこみ、人が出すごみにたよって生きるようになったと考えられています。今でも、畜舎の牛ふんなどからよく発生します。

イエバエは、育った場所から数kmも飛ぶことがあります。家のまわりの発生源としては、生ごみやごみ置き場、家畜のふんの山などがあげられます。とくに家畜のふんの山の中は、あたたかく湿っていて暗いので、幼虫がよく育ちます。

ハエの対策としては、まず育つ場所をへらすことが大切です。生ごみをふたつきの入れ物に入れ、こまめに出せば、産みつけられた卵がおとなになるのをふせげます。建物に入りこむのをふせぐには、細かい網戸や、出入り口にたらすすだれのようなものが使われます。

梅雨どきには、小さなコバエが大発生して、家や建物に入りこむことがあります。2022年、日本で6〜7月の雨の季節に大発生するコバエが、クロバネキノコバエ科の新種(Hyperlasion breviantenna)として報告されました。羽化したばかりのおとなは早朝に現れ、家や公共の建物などに入りこみます。

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「ハエがわく」のはなぜ?(レディの実験)

「ウジがわく」という言い方があるように、昔は、ハエやウジが腐った肉などから自然に生まれると考えられていました(自然発生説)。

17世紀のイタリアの医師フランチェスコ・レディは、魚や肉を入れたびんを用意し、口を目の細かい布でおおったびんと、おおわないびんで比べました。数日後、ハエがとまれる、おおわないびんにはウジが現れましたが、布でおおったびんには現れませんでした。ウジはハエの卵から生まれることが、1668年に発表されたこの実験で示されたのです。

排水口から出る小さなハエ(チョウバエ)

風呂場や台所の排水口、トイレのまわりに、ハート形の羽をした小さな虫がとまっていることがあります。これはチョウバエのなかまです。日本の家でよく見られるのは、体長4mmほどで灰黒色の大きな羽がハート形に見えるオオチョウバエと、体長1mmほどのホシチョウバエの2種です。

幼虫は、排水口や下水管の中で有機物がたまってヘドロのようになった部分にすみ、細菌などを食べて育ちます。チョウバエは名前に「ハエ」とつきますが、イエバエなどとは別のチョウバエ科の虫です。体や羽が毛におおわれ、とまったときの姿がガに似ているため、英語では moth fly(ガのようなハエ)と呼ばれます。

白い壁にとまった、毛深い灰色の羽をハート形に広げた小さな虫
ハート形に見えるオオチョウバエ写真: Mvuijlst(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

一生と寿命(卵・ウジ・さなぎ・成虫)

ハエは、卵 → 幼虫(ウジ)→ さなぎ → 成虫と、姿を大きく変えて育つ「完全変態」の昆虫です。

ハエの幼虫は「ウジ(蛆)」と呼ばれます。脚がまったくなく、頭も外からはほとんど見えません。体の後ろに気門(空気の入り口)があり、そこを外に出して呼吸できるので、どろどろにとけた腐敗物の中でもくらせます。口には、かぎのような「口鉤(こうこう)」があり、物に引っかけて進んだり、えさをかきまぜたりするのに使います。

幼虫は2回脱皮して3齢になり、十分に育つと、えさ場をはなれ、多くは土にもぐってさなぎになります。このとき幼虫は皮をぬがず、体が縮んで米つぶのような形になり、そのまま皮がかたくなって殻になります(囲蛹=いよう)。イエバエなどのおとなは、頭にある風船のような袋(額嚢=がくのう)をふくらませて、殻の前のはしを丸いふたのように押しあけて出てきます。

ハエの成虫、細長い卵、たくさんのウジ、1匹のウジ、俵形の殻、さなぎを描いた白黒の図画像はイメージです
イエバエの一生(図)写真: Robert Evans Snodgrass(Public domain) / Wikimedia Commons

卵から何日でおとなに? 寿命は?

イエバエのメスは、ふつう一生に一度だけ交尾し、受けとった精子をたくわえて使います。卵は75〜150個ずつ何回かに分けて産み、一生で500個ほどになることもあります。卵は1日以内にかえります。

育つ速さは温度で大きく変わります。たとえばイエバエのさなぎの期間は、35℃なら2〜6日ですが、14℃では20日以上かかります。卵からおとなになるまでは、条件がよければ7〜10日ほどですが、条件が悪いと2か月ほどかかることもあります。おとなのイエバエは、ふつう2〜4週間ほど生きます。温帯では1年に12世代、熱帯や亜熱帯では20世代をこえてくり返すことがあります。

寒い地域では、一部のイエバエがおとなのまま、すきまやカーテンのひだなどにひそんで冬をこします。春にあたたかくなると目をさまし、卵を産む場所をさがします。

生まれ方や寿命は、種によってちがいます。ニクバエのなかまは、かえる直前の幼虫が入った卵を動物の死体に産みつけ、すぐにかえった幼虫は肉の中で5〜10日すごしてから、土にもぐってさなぎになります。おとなは、多くが1か月あまり生きると考えられています。キイロショウジョウバエは、25℃で飼うと約10日で次の世代になり、寿命は50日〜2か月ほどです。

シロアリになりすますウジ

ウジの中には、ほかの昆虫の巣にもぐりこんでくらすものもいます。2025年に発表された研究では、モロッコのシロアリの巣の中で、シロアリといっしょにくらすクロバエ科の幼虫(Rhyncomya属)が見つかりました。この幼虫は、体のにおいの成分がその巣のシロアリとそっくりで、体の後ろのはしはシロアリの頭に、体をとりまく長い突起はシロアリの触角に似ています。シロアリとのやりとりや身づくろいにもとけこみ、巣の一員のようにくらしていました。

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ハエの天敵と病気(何で死ぬ?)

ハエは、卵から成虫まで、どの時期にもほかの生き物に食べられています。鳥やコウモリ、カエル、トカゲ、トンボ、クモなどがハエを食べ、卵や幼虫、さなぎには寄生バチなどの寄生者がいます。家畜のふんの山では、エンマムシのなかまの甲虫がイエバエの幼虫を食べ、1日に20個のイエバエの卵を食べるダニもいます。

カビのなかまの病気にもかかります。Entomophthora muscae というカビに感染したハエは、体の中に菌糸が広がり、5〜7日ほどで死んでしまいます。死ぬ前のハエは高い場所にはい上がって羽を広げ、死がいから胞子が広くまき散らされます。家の窓に、このカビで死んだハエがはりついていることもあります。2022年に発表された研究では、この菌が感染して死んだイエバエのメスからにおいの成分を出させ、健康なオスを引き寄せて、菌をうつしやすくしていることがわかりました。

黒い背景の中央にとまったハエの死がいと、そのまわりに白く飛び散った粉
カビに感染して死んだイエバエ写真: Sten(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

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研究で大活躍のショウジョウバエ

キイロショウジョウバエは、生き物の研究に広く使われている動物です。体が小さく、せまい容器でたくさん飼え、特別なエサもいらず、短い期間で何世代も観察できるからです。1901年に研究に使うことが提案され、1910年からは、アメリカのトーマス・ハント・モーガンが遺伝のしくみを調べるのに使いました。モーガンは、白い目になる突然変異の遺伝子がX染色体の上にあることをつきとめ、性別と結びついた遺伝のしくみなどを明らかにしました。

2000年には、全ゲノムの配列が発表されました。ヒトの病気の原因として知られる遺伝子の多くが、ショウジョウバエにも見つかっています。2017年までに、ショウジョウバエを使った研究者に6つのノーベル賞が贈られ、2017年のノーベル生理学・医学賞は、ショウジョウバエで体内時計のしくみを明らかにした研究にあたえられました。1947年には、ロケットで宇宙へ打ち上げられたこともあります。

白い紙の上に立つ、赤い目と茶色の体をした小さなハエ
研究で使われるキイロショウジョウバエ写真: Hannah Davis(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

ハエの脳の地図と、コンピューターの中のハエ

ショウジョウバエの脳は小さいですが、学習や記憶、行動のえらび分けなどができます。研究者たちは、脳をうすく切った切片を電子顕微鏡で撮影し、すべての神経細胞とそのつながりを地図にした「コネクトーム」を作ってきました。

2023年には、ショウジョウバエの幼虫の脳全体の地図が発表されました。神経細胞は3,016個、神経細胞どうしのつなぎ目(シナプス)は54万8,000個でした。2024年には、おとなのメスの脳全体の地図が発表され、13万9,255個の神経細胞と、およそ5,000万のシナプスがふくまれていました。このデータは公開されていて、だれでもダウンロードしたり、画面で見たりできます。

ナゾロジーでくわしく昆虫の「全脳マッピング」にはじめて成功!

同じ2024年には、この配線図と、神経が出す物質の予測だけをもとに、ハエの脳全体をコンピューターの中で再現したモデルも発表されました。モデルで甘さや水を感じる神経を働かせると、実際のハエで食べ始めるときに必要な神経がきちんと予測でき、触れたことなどを感じる神経からは、触角の身づくろいにかかわる神経の働きも言い当てられました。ただし、ハエの行動をまるごと再現するには、配線図だけでなく、神経どうしのさまざまなつながり方やホルモンの働きなども必要だと考えられています。

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ハエも遊ぶ? 経験を子孫に伝える?

ショウジョウバエの行動の研究からは、意外な姿も見えてきました。2023年に公開された研究では、自由に乗り降りできる、くるくる回る台(メリーゴーランド)をショウジョウバエに用意しました。台を避けるハエもいましたが、自分から何度も乗りに来て、長く回り続けるハエもいました。研究者は、これを「遊びのような行動」と考えています。

2019年に発表された研究では、天敵のハチにさらされたショウジョウバエの子孫が、アルコールの多いエサを好むようになり、その好みが5世代にわたって受けつがれました。

ナゾロジーでくわしくハエもメリーゴーランドに乗って「遊ぶ」と判明!虫が遊ぶ理由とは?

人とのかかわり(病気を運ぶハエ・役に立つハエ)

病気を運ぶハエ

ハエは、人のくらしの近くで「衛生害虫」として、きらわれてきました。イエバエなどは、ふんや死がいといった不潔な場所と、人の食べ物の両方にとまります。そのとき、体の表面についた病原体や、食べ物の上に吐きもどした液、ふんを通して、細菌やウイルス、寄生虫の卵を運ぶことがあります。イエバエが運びうる病原体は100種類をこえ、腸チフスやコレラ、赤痢などの原因菌がふくまれます。日本では、病原性大腸菌O157を運ぶことも注目されています。

血を吸うハエもいます。アフリカのツェツェバエは、人や家畜の血を吸うときに、アフリカ睡眠病(眠り病)の病原体であるトリパノソーマを運びます。

生きた肉を食べるウジ(ハエ症)

ハエの幼虫が人の体に寄生する病気を「ハエ症(蠅蛆症=ようそしょう)」といいます。死がいやふんでも育つハエの幼虫が、傷口などに偶然入りこむものと、脊椎動物の体でしか育たない寄生性のハエによるものがあります。

アメリカ大陸の熱帯・亜熱帯原産のラセンウジバエは、家畜の傷に卵を産み、かえった幼虫が生きた動物の肉を食べる害虫です。アメリカでは、不妊にした虫を大量に放す方法で1957年から根絶にとりくみ、成功しましたが、2020年代にふたたび入りこみつつあると警告されています。2025年には、エルサルバドルから来た人がラセンウジバエに感染していたことが、アメリカ国内で確認されました。

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沖縄のウリミバエ根絶(不妊虫放飼)

ミバエのなかまの多くは植物の組織の中に卵を産み、幼虫がその中を食べて育つため、一部は農作物に大きな被害を出します。東南アジア原産のウリミバエは、ウリ類やゴーヤー、トマト、ピーマンなどを荒らす害虫です。日本では1919年に八重山列島で見つかり、1970年代には沖縄本島や奄美群島まで広がりました。

そこで行われたのが「不妊虫放飼(ふにんちゅうほうし)」です。大量に育てたウリミバエに、羽化の2日前にガンマ線を当てて子を残せなくしてから、野外に放します。野生のウリミバエが不妊の相手と交尾すると次の世代が生まれないため、数がへっていきます。放した数は合わせて625億匹にのぼり、1993年に沖縄県全域での根絶が宣言されました。これにより、ゴーヤーを本土へ出荷できるようになりました。

白っぽいウリの表面にとまった、黄色と茶色のもようのハエ
ウリミバエのメス写真: Polychronis Rempoulakis(CC BY 4.0) / Wikimedia Commons

役に立つハエ(なぜいるの?)

ハエは、きらわれるだけの虫ではありません。腐った食べ物や動物のふん、死がいを食べるハエの幼虫の多くは、生き物の体を分解して自然にもどす「分解者」として、生態系で大切な役目をしています。

花粉を運ぶ虫としても、ハエはハチのなかまに次いで大きなグループです。寒い場所や湿った場所では、ハエの役割がとくに大きくなります。ハナアブのなかまは農作物の受粉に役立ち、イエバエも、品種改良のときにハチのかわりの受粉役として使われることがあります。

  • マゴットセラピー:清潔な環境で育てたハエの幼虫に、傷口の死んだ組織を食べさせる治療法です。1928年からアメリカで有効性が確かめられ、2004年にはアメリカ食品医薬品局(FDA)が医療用の機器として認めました。
  • 法医昆虫学:死体に集まるハエなどの昆虫の種類や育ち具合から、死んでからの時間などを推定する学問です。
  • ごみやふんの処理:家畜のふんなどにイエバエの卵を産ませ、分解されたふんは肥料に、幼虫やさなぎは飼料にする技術があります。もとは旧ソ連が、火星へ向かう有人宇宙船の中でのふんの処理と食料の確保を考えて、品種改良したイエバエです。
  • チーズ:イタリアのサルデーニャ島のチーズ「カース・マルツゥ」は、チーズバエのなかまの幼虫の働きで熟成させます。

名前と文化(「蠅」と「蝿」)

ハエは漢字で「蠅」と書きます。「蝿」は、この字を略した形です。「蠅」の右側の「黽」は音を表す部分で、「かえる」を意味する字とは別の字とされています。

ハエはいつも人のまわりを飛びまわるため、昔から虫よけの道具には、ハエの名前がつくことがよくありました。ハエたたき、ハエ取り紙、「はえいらず」などです。ハエ取り紙は、ねばねばする薬をぬった紙でハエをとらえる道具です。1960年代には、東京都のごみの最終処分場だった夢の島でハエが大発生し、たまったごみを深さ1.5mにわたって、幼虫ごと焼きはらうという方法もとられました。

古代エジプトでは、ハエの形のお守りが作られました。追いはらってもまた戻ってくることから、ハエは勇気とねばり強さをたたえる軍の勲章にも使われました。

よくある疑問

ハエは何類? 何科? 何の仲間?
ハエは昆虫で、蚊やアブと同じハエ目(双翅目)に入ります。1つの科の名前ではなく、イエバエ科、クロバエ科、ニクバエ科、ショウジョウバエ科など、たくさんの科をまとめた呼び名です。日本だけで、60ほどの科に3,000種近くがいます。
ハエはなぜたかるの? 何に寄ってくる?
ハエのおとなは、花の蜜や果物などから糖分をとるほか、卵巣や精巣を育てるために、死がいやふん、腐ったもの、涙やだ液などからたんぱく質をとります。腐ったものやふんは、卵を産んで幼虫を育てる場所でもあります。クロバエのなかまは、1.6kmはなれた死がいのにおいもかぎつけます。
ハエはどこから来るの? どこで生まれる?
イエバエなど家のまわりのハエは、生ごみやごみ置き場、家畜のふん、動物の死がいなど、腐りかけたものに産みつけられた卵から生まれ、幼虫(ウジ)はそこで育ちます(ニクバエのなかまは、卵ではなく幼虫を産みつけます)。イエバエは育った場所から数kmも飛ぶことがあり、自分から家に入りこむ性質もあります。腐った肉から自然にわくのではないことは、17世紀にレディが実験で示しました。
ハエの寿命は何日? 卵から何日で生まれる?
イエバエの卵は1日以内にかえり、条件がよければ7〜10日ほどでおとなになります。おとなは、ふつう2〜4週間生きます。キイロショウジョウバエは、25℃で約10日で次の世代になり、寿命は50日〜2か月ほどです。
ハエの羽は何枚?
飛ぶための羽は、前の2枚(1対)だけです。後ろの1対は「平均棍」という小さなこん棒のような器官に変わっていて、飛ぶときの体の回転を感じとるセンサーとして働きます。ハエ目の学名 Diptera も「2枚の羽」という意味です。
ハエはなぜたたこうとしても逃げられるの?
イエバエは、目で見た情報を人よりずっと速く処理していて、人の動きはスローモーションのように見えていると考えられています。さらに、平均棍を使って、90度の方向転換を50ミリ秒ほどでこなすこともできます。
排水口にいるハート形の小さなハエは何?
チョウバエのなかまです。日本の家でよく見られるオオチョウバエは体長4mmほどで、灰黒色の大きな羽がハート形に見えます。幼虫は、排水口や下水管にたまったヘドロのような部分で育ちます。イエバエなどとは別のチョウバエ科の虫です。
「蠅」と「蝿」のちがいは?
どちらも「はえ」を表す漢字です。「蠅」がもとの形(正字)で、「蝿」はそれを略した形です。

ナゾロジーで読む38本

  1. 01 ショウジョウバエは「13G」の”超重力”に耐える
  2. 02 ハエの全脳エミュレーションを達成! 生命のデジタル化が「現実」へ大きく前進
  3. 03 「生きた肉を食らうウジ虫」に寄生されていた米国女性が発見される
  4. 04 妙に可愛い……シロアリを騙すために「お尻に顔」を持つ幼虫
  5. 05 コーヒー飲んだら虫は死ぬ?「カフェインに殺虫効果がある」と判明

近いなかまの図鑑

同じハエ目

同じ昆虫

参考文献

  1. Sueyoshi M, Nakamura S, Menzel F (2022) A new species of Hyperlasion Schmitz (Diptera: Sciaridae), causing periodic outbreaks in Japan. Zootaxa
  2. Schär S ほか (2025) Blow fly larvae socially integrate termite nests through morphological and chemical mimicry. Current Biology
  3. Naundrup A ほか (2022) Pathogenic fungus uses volatiles to entice male flies into fatal matings with infected female cadavers. The ISME Journal
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表紙の写真: USDA(アメリカ農務省)(CC BY 2.0) / Wikimedia Commons
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この図鑑は、参考文献の資料をもとに、ナゾロジー編集部がまとめています。