雪が降る中、湯気の立つ温泉につかり、頭や肩に雪をのせた、赤い顔のサル No.0018

ナゾロジー図鑑 ・ 生き物

サル

Primates(ヒトを除く)

物をつかむ手と、前を向いた目。
雪の国にもすむ、ヒトの親戚。

ナゾロジーの記事
71本
霊長類のなかま(ヒトもふくむ)
376〜524種
ニホンザルがたえられる寒さ
−20℃

サルは、霊長類(サル目)のうちヒトをのぞいたなかまの呼び名です。多くはアフリカ・アジア・中南米の熱帯の森にすみ、群れでくらす種もたくさんいます。日本にもともとすむサルはニホンザル1種で、ヒトをのぞく霊長類の中でいちばん北にすんでいます。

図鑑データ

分類
哺乳類 › 霊長目(サル目)のうち、ヒトをのぞいたなかま
学名
Primates(霊長目)。「サル」は正式な分類の名前ではなく、霊長目からヒトをのぞいた呼び名
英名
monkey(モンキー。原猿と類人猿をふくまない)。類人猿は ape、キツネザルは lemur など
なかま
霊長類は376〜524種(分け方による。ヒトもふくむ)。曲鼻猿、メガネザル、新世界ザル、旧世界ザル、類人猿
大きさ
体重30gほどのネズミキツネザルのなかまから、200kgをこえるゴリラまで
すみか
おもにアフリカ・アジア・中南米の熱帯。熱帯の森にすむ種が多い
日本では
在来種はニホンザル1種(本州・四国・九州など)。ヒトをのぞく霊長類で、いちばん北にすむ
食べもの
多くは果実が中心。葉、種、花、昆虫などの小さな動物も。葉や樹液をおもに食べる種もいる
体の特徴
物をつかめる手足と平たい爪(かぎ爪をもつ種もいる)、顔の正面に並んだ目
寿命
ニホンザルは野生でふつう25年以下。30年以上生きた例もある
子ども
ニホンザルは1回にふつう1頭(まれに2頭)
保全状況
霊長類の半分以上の種に絶滅のおそれ。ニホンザルは IUCN のレッドリストで低危険種

サルとは(類人猿とのちがい)

サルは、哺乳類の「霊長目(れいちょうもく)」、別名サル目のなかまから、ヒトをのぞいたものをまとめた呼び名です。霊長目のなかまは「霊長類」ともいいます。生き物の分け方の上では、ヒトもこの霊長目に入ります。

日本語の「サル」は、意味の広いことばです。キツネザルのような「原猿(げんえん)」も、チンパンジーやゴリラのような「類人猿(るいじんえん)」も、広い意味ではサルにふくまれます。一方、英語の monkey(モンキー)は、原猿と類人猿をのぞいたサルだけを指すことばです。そのため日本語でも、とくに翻訳された本などでは、類人猿をサルと分けて呼ぶことがあります。

また、日本でただ「サル」といえば、多くの場合は日本にすむニホンザルのことです。

サルはなぜ人間にならないの?

「サルが進化して人間になった」と言われることがありますが、ヒトは今いるサルから生まれたわけではありません。ヒトと今のサルは、むかしの共通の祖先から枝分かれして、それぞれ別の道を進化してきた親戚どうしです。

たとえば、ニホンザルなどの「旧世界ザル」と、ヒトやチンパンジーをふくむ類人猿のなかまが、共通の祖先から分かれたのは、2,500万〜3,000万年前と考えられています。どちらも長い時間をかけて、今の姿になりました。

霊長類の祖先がどんなくらしをしていたのかも研究されています。祖先は1頭ずつでくらしていたと長く考えられてきましたが、2023年の研究は、野外調査のデータを集めて分析し、祖先はペアでくらすことが多かったと推定しました。

ナゾロジーでくわしく【ぼっちへの進化】サルの祖先は群れをやめて単独生活に戻っていた

サルの種類とすみか(旧世界ザル・新世界ザル)

霊長類(ヒトもふくむ)は、分け方によって376〜524種が知られています。新しい種も見つかりつづけていて、2010年代だけでも36種が新しく発表されました。サルのなかまは、大きく次のように分けられます。

  • 曲鼻猿(きょくびえん):キツネザル、ロリス、ガラゴなど。鼻の先がしめっていて、多くは夜に活動します。キツネザルのなかまは、マダガスカル島だけにすんでいます。
  • メガネザル:大きな目をもつ小さなサルで、昆虫や小さな動物だけを食べます。以前は曲鼻猿とあわせて「原猿」と呼ばれていましたが、今では、曲鼻猿よりも、新世界ザル・旧世界ザル・類人猿のなかま(真猿)に近いことが分かっています。
  • 新世界ザル(広鼻猿):メキシコと中南米の熱帯にすむサル。マーモセット、オマキザル、リスザル、ヨザル、クモザル、ホエザルなど、5つの科に分けられます。
  • 旧世界ザル(オナガザル科):アフリカとアジアにすむサル。ニホンザルをふくむマカクのなかまや、ヒヒ、マンドリル、コロブス、テングザルなどです。24属138種が知られ(数え方で少し変わります)、霊長類でいちばん大きな科です。
  • 類人猿:テナガザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボ。しっぽがなく、分類の上ではヒトと同じヒト上科に入ります。
木の枝の上を横向きに歩く、白黒しまの長いしっぽをたらした灰色のキツネザル
枝を歩くワオキツネザル写真: H. Zell(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

旧世界ザルと類人猿をまとめて「狭鼻猿(きょうびえん)」、新世界ザルを「広鼻猿(こうびえん)」と呼びます。名前のとおり、鼻のつくりがちがいます。狭鼻猿は、鼻の穴が下を向いています。広鼻猿は鼻が平たく、左右の鼻の穴がはなれていて、横を向いています。

サルのなかまは、おもにアフリカ、アジア、中南米の熱帯にすんでいます。とくに熱帯の森に多く、霊長類の種の90%以上が熱帯林にくらしています。ヨーロッパには、ジブラルタルにバーバリーマカクがすむだけで、北アメリカの北部にはサルはいません。

新世界ザルは海をわたった?

新世界ザルの祖先は、アフリカにいたサルだと考えられています。新世界ザルと狭鼻猿が分かれたのは、3,000万〜4,000万年前ごろ。そのころ、南アメリカ大陸は、まわりの大陸から海でへだてられていました。そこで、アフリカのサルが、流された木や植物のかたまりに乗って、今より幅のせまかった大西洋をわたった、という説が有力です。

2026年には、アフリカのコンゴ民主共和国の熱帯雨林から、新種のコロブス(Colobus congoensis)が報告されました。地元の一部の人が「リクウェリ」と呼ぶ、めったに見られない珍しいサルで、黒い顔の口のまわりに、オレンジがかったクリーム色の模様があります。

ナゾロジーでくわしく「新種のサル」をコンゴの熱帯雨林で発見

日本にいるサルは?(ニホンザルの生息地)

日本にもともとすむサルは、ニホンザル1種だけです。本州・四国・九州と、そのまわりの島じまにすんでいて、北海道にはいません。屋久島のサルは、毛が長く色の濃い「ヤクシマザル」という亜種に分けられています。

ニホンザルは、ヒトをのぞく霊長類の中で、いちばん北にすむ種です。北の端は、本州の北のはしにある青森県の下北半島。雪が何か月も積もる地域にもくらしていて、英語では「スノーモンキー(雪のサル)」とも呼ばれます。−20℃ほどの寒さにもたえられます。

白い背景の前で、横を向いてすわる、灰色がかった毛と赤い顔のサル
すわるニホンザル写真: Lorie Shaull(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

大きさと体のつくり(しっぽ・赤い顔)

サルのなかまは、大きさの幅がとても大きいグループです。霊長類全体では、体重30gほどのネズミキツネザルのなかまから、200kgをこえるゴリラまでいます。

原猿と類人猿をのぞいたサル(英語の monkey)で、いちばん小さいとされるのは、南アメリカのアマゾン川流域の西部にすむピグミーマーモセットです。体重は100gあまりで、頭から胴の長さは12〜15cmほどしかありません。

木の幹にしがみつく、しま模様の長いしっぽをもつ、黄色っぽい毛の小さなサル
ピグミーマーモセット写真: H. Zell(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

いちばん大きいとされるのは、アフリカ中西部の森にすむマンドリルのオスで、頭から胴の長さが70〜95cm、体重が19〜30kgほどあります(もっと重いとする資料もあります)。

草地の上を四つ足で立つ、赤い鼻すじと青いほおをもつ、がっしりした体のサル
マンドリル写真: Sanjay Acharya(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

ニホンザルは、頭から胴の長さがオスで53〜60cm、メスで47〜55cm、体重はオスで6〜18kg、メスで6〜14kgほどです。寒い東北地方や中部地方の山の群れは、あたたかい西日本の群れより体が大きい傾向があります。脳の重さは95gほどです。

サルの体には、木の上でくらしてきた祖先から受けついだ特徴があります。

  • 手と足:多くの種は手足に5本ずつ指があり、親指がほかの指と向き合うので、枝や食べものをつかめます。指先には、とがったかぎ爪ではなく、ヒトと同じ平たい爪があります(マーモセットのように、かぎ爪をもつサルもいます)。
  • 目:2つの目が顔の正面に並んでいて、ものとの距離をつかむのが得意です。旧世界ザルは、ヒトと同じ「3色型」の色覚をもっています。新世界ザルの多くはオスが「2色型」で、赤と緑を見分けにくいと考えられています(ホエザルなど例外もあります)。
  • しっぽ:旧世界ザルの多くはしっぽをもっていますが、しっぽで物をつかむことはできません。新世界ザルのクモザルやホエザルのなかまは、しっぽで枝に巻きつき、しっぽだけで体重をささえられます。ニホンザルのしっぽは短く、6〜11cmほどです。類人猿には、しっぽがありません。
  • おしり:旧世界ザルのおしりには、「尻だこ」と呼ばれる、かたくなった皮ふがあります。
緑の葉の中で、片手と長いしっぽで枝につかまってぶら下がる、細長い手足のサル
しっぽで枝にぶら下がるクモザル写真: Charles J. Sharp(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

鼻の形も種によってさまざまです。テングザルのおとなのオスは、たれ下がるほど大きな鼻をもっています。2024年に頭の骨を調べた研究では、大きな鼻は、オスの強さや地位を示す目印になり、また、低く大きな鼻声を出すのにも役立っている、という考えを支持する結果が出ました。

緑の木々を背に、たれ下がった大きな鼻をもつ、赤茶色の毛のサルの上半身
テングザルのオス写真: Charles J. Sharp(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

ナゾロジーでくわしく「デカい鼻が交尾で役立つ!?」ブサイクな方がモテるテングザルの不思議

ニホンザルの顔はなぜ赤い?

ニホンザルの顔とおしりには毛がなく、赤い皮ふが見えています。秋から冬の交尾の季節(繁殖期)には、オスは顔と性器の赤みが増し、メスは顔とおしりのまわりが、さらにあざやかな赤になります。

白っぽいふさふさの毛にかこまれた、目を閉じた赤い顔のアップ
ニホンザルの赤い顔写真: Daisuke Tashiro(CC BY-SA 2.0) / Wikimedia Commons

この赤さが、相手を選ぶときの手がかりになっているのかは、研究が続いています。飼育されているニホンザルを調べた研究では、メスの顔やおしりの赤さは、発情の周期などによって変わっていましたが、オスが赤いメスを特に好んで選ぶようすは見られませんでした。

マンドリルも、顔とおしりに赤や青のあざやかな皮ふをもちます。色はオスのほうがあざやかで、群れの中で優位なオスほど、さらにあざやかです。

何を食べる?

多くのサルは、果実をよく食べます。そのほかに、葉、種、木の実、花、卵、昆虫やクモなどの小さな動物も食べ、何をどれだけ食べるかは種によってちがいます。

特定の食べものに合わせた体をもつサルもいます。ホエザルやコロブスのように葉をおもに食べるサルは、消化しにくい葉から栄養をとるために、長い消化管をもっています。マーモセットのなかまは、じょうぶな前歯で木の皮をかじり、しみ出た樹液(ガム)をなめます。マダガスカルのアイアイは、木をたたいて中の虫の幼虫をさがし、細長い中指を差しこんで引き出します。

サルのうち、メガネザルと、新世界ザル・旧世界ザル・類人猿は、ヒトと同じく、体の中でビタミンCをつくることができません。そのため、食べものからとる必要があります。キツネザルなどの曲鼻猿は、ほかの多くの哺乳類と同じように、ビタミンCをつくれます。

ニホンザルの食べもの

ニホンザルは、おもに果実を食べ、葉、花、種子、キノコ、卵、昆虫なども食べます。春は花や若葉、夏はみずみずしい実をよく食べるなど、季節によって食べものが変わります。京都府の嵐山では、192種類もの食べものを食べていたという報告があります。

食べものが少ない冬には、木の皮なども食べます。下北半島の群れは、海藻や貝を食べることもあります。

長野県の上高地では、ニホンザルが冬に魚を食べることが知られています。2021年の研究は、上高地をふくむ中部山岳国立公園のニホンザルのふんのDNAを調べ、冬にブラウントラウト(マスのなかま)や川の虫、貝を食べていることを確かめました。冬でも水温が5℃ほどに保たれた、わき水の流れる川が、冬をこす助けになっていると考えられています。

ナゾロジーでくわしく冬に魚を食べるニホンザルの決定的瞬間が撮影される!

ジブラルタルのバーバリーマカクでは、土を食べる行動が2026年に報告されました。土を食べるのは観光客の多い夏に多く、観光客の食べものを多く食べたときほど起こりやすいことが分かりました。研究チームは、人の食べものでおなかの細菌のバランスがくずれて起こる不調を、土を食べてやわらげているのではないかと考えています。

ナゾロジーでくわしくジブラルタルの猿が「土を食べる」ようにーー原因は「観光客」にあった?

群れのくらし(毛づくろい・ボスザル)

サルのなかまは、動物の中でもとくに社会的なくらしをしています。ペアや家族でくらす種、1頭のオスと何頭ものメスでくらす種、オスもメスも何頭もいる群れでくらす種など、群れの形はさまざまです。

ニホンザルは、オスとメスが何頭もいる、十数頭から100頭以上の群れでくらします。群れの中心になるのはメスとその家族で、メスは一生、生まれた群れにとどまります。オスは、3〜8歳ごろに生まれた群れを出て、別の群れに入ったり、遠くへ移動したりします。群れの中には順位があり、メスの順位は母親の順位で決まります。

ニホンザルは、決まった巣をつくりません。毎日移動しながら、その日に寝る場所を決めます。寝る場所には、敵におそわれにくい急な斜面の森やがけ、木の上が選ばれ、ふつうは枝の上にしゃがんで眠ります。

ボスザルはいない?

以前は、強い「ボスザル」が群れの中心にいて、そのまわりをメスと子どもが囲む、と説明されていました。しかし、白山の野生の群れの研究では、ボスザルのような存在は見られませんでした。ボスがいるように見えるのは、人が決まった場所でえさをあたえる「餌付け」によって、えさのひとりじめが起きやすくなったためだ、という考えもあります。「ボスザル」という呼び名は、のちに「リーダー」などと呼びかえられるようになりました。

大分県の高崎山では、2021年に、9歳のメス「ヤケイ」が、おとなのオスたちをおさえて群れのトップに立ちました。記録が残る約70年の間で、この群れでメスがトップになったのは初めてのことでした。

毛づくろいの本当の意味(ノミ取り?)

サルどうしが毛をかき分けるようすは、「サルのノミ取り」と呼ばれてきました。けれどもニホンザルは毎日寝る場所を変えるため、ノミはつきにくく、実際に取っているのは、シラミやその卵、皮ふのフケなどです。

毛づくろいは、体をきれいにするためだけのものではありません。親しさを伝えるあいさつになり、けんかのあとの仲直りや、群れの中の関係を保つのにも役立っています。メスどうしでは、血のつながったなかまとの毛づくろいが、とくに多く見られます。

こけの生えた地面に寝転んだサルの毛を、ほかの2頭のサルがかき分けているようす
毛づくろいをし合うヤクシマザル写真: Grendelkhan(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

寒い冬には、何頭ものサルが体をくっつけ合って抱き合い、「サル団子」と呼ばれるかたまりになって眠ります。寒さをしのぎ、身を守るためです。だれとくっつくかには、血のつながりや順位など、群れの関係があらわれます。

群れで移動するときの並び方にも、なかまとの関係が出ます。南アフリカのチャクマヒヒをGPSで追った2025年の研究では、一列で歩くときの順番はでたらめではなく、仲のよい相手どうしが近くに並び、優位な個体が列のまん中に入りやすいことが分かりました。

ナゾロジーでくわしくヒヒが一列縦隊で歩く不思議な現象、その「並び順のルール」を解明!

温泉に入る・イモを洗う(サルの知能と文化)

霊長類は、動物の中でもとくに知能の高いグループです。なかまを見分け、協力したり、だましたりもします。記号を覚えて使ったり、数の考え方を理解したりできることも、実験で分かっています。

ニホンザルの知能を調べた2022年の研究では、意味のない2つの記号の組み合わせで、それぞれの物をあらわすことを覚えさせました。するとニホンザルは、画面に出ていない記号の組み合わせを、見せられた物だけをたよりに、2つ順番に選んで組み立てることができました。研究チームは、ヒトと旧世界ザルの共通の祖先が、記号を頭の中で組み立てる力の土台をすでにもっていた可能性がある、と考えています。

温泉に入るサル

長野県の地獄谷野猿公苑(じごくだにやえんこうえん)では、冬になると、ニホンザルが温泉につかります。1964年に公苑が開かれたころ、好奇心の強い子ザルが近くの旅館の露天風呂に入り、それを大人のサルがまねしたのが始まりとされています。今は、サル専用の露天風呂があります。

温泉に入るのは、おもに12月から3月の寒い時期で、メスと子どもがほとんどです。2018年の研究では、ここのメス12頭のふんにふくまれるストレスホルモンを調べました。冬の温泉は、寒さから身を守るために使われていて、温泉は順位の高いメスが優先して使っていました。温泉を使えることは、ストレスホルモンの少なさと結びついていました。

イモを洗うサル

宮崎県の幸島(こうじま)では、研究者が浜に置いたサツマイモを、「イモ」と名づけられた1頭のメスが、水で洗ってから食べるようになりました。やがて海水につけて塩味をつけるようにもなりました。この行動は、血のつながりのあるなかまなどに広がり、世代をこえて受けつがれていきました。砂のまじった麦を水に投げこみ、浮いてきた麦だけを拾って食べる方法も広まりました。

群れの中で学ばれて受けつがれる、こうした行動の研究は、サルの「文化」の例として世界から注目されました。ただし、なかまを見てまねたのか、なかまの行動に刺激されて自分で試すうちに同じやり方にたどり着いたのかは、慎重に考えるべきだという意見もあります。

道具を使うサル

野生のサルが道具を使うようすも、たくさん観察されています。新世界ザルのオマキザルのなかまには、木の実を石の台にのせ、別の大きな石でたたいて割るものがいます。タイやミャンマーのカニクイザルは、石を使って木の実や、カキなどの貝を割ります。

落ち葉の地面で、手に持った石を頭の上にふり上げる、黒っぽい頭の小さなサル
石で種を割ろうとするオマキザル写真: Tiago Falótico(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

なかまを「名前」で呼ぶ

声のやりとりも、思った以上に複雑です。2024年の研究では、マーモセットが「フィー」という鳴き声の中で、特定の相手を呼び分けていることが分かりました。呼ばれた本人は、自分に向けられた声に、より正しく返事をしました。それまで、なかまを声で呼び分けることが知られていた動物は、ヒト、イルカ、ゾウでした。

ナゾロジーでくわしくマーモセットも互いに「名前」で呼び合っていると判明!ヒト以外の霊長類で初

一方で、生きるのに役立つとは考えにくい「流行」もあります。中米パナマのヒカロン島では、オマキザルのなかまの若いオスたちが、別の種であるホエザルの赤ちゃんを連れ歩く行動が生まれました。最初に始めたのは1頭の若いオスで、15か月の間に、5頭のオスが合わせて11頭の赤ちゃんを運ぶまでに広がりました。

寿命と子育て

サルのなかまは、同じくらいの大きさのほかの哺乳類にくらべて、ゆっくり育ち、おとなになるのがおそく、長生きです。

ニホンザルの交尾の季節は、おもに秋から冬です。妊娠の期間は161〜186日で、春から夏に、ふつう1頭(まれに2頭)の赤ちゃんを産みます。出産の間かくは、ふつう2〜3年です。

ニホンザルの赤ちゃんは、生まれてから4週間ほどは母親のおなかにしがみついて運ばれ、そのあとは背中にも乗るようになります。1歳をすぎても運ばれることがあります。生後5〜6週で初めて固い食べものを口にし、乳を飲む期間は11〜18か月です。メスは5〜7歳でおとなになります。

地面にすわったメスのサルが、うでの中に小さな赤ちゃんをかかえているようす
赤ちゃんをかかえるニホンザルの母親写真: lumoplank(CC0) / Wikimedia Commons

ニホンザルの寿命は、野生ではふつう25年以下です。子どものうちに死ぬものも多くいます。えさをあたえられている群れでは、30年以上生きたと考えられるサルもいて、メスで32年、オスで28年まで生きるという記録もあります。

サルの母親が、障害のある子や死んだ子の世話を続ける例も報告されています。2023年に報告された野生のオマキザルの例では、手足に障害がある赤ちゃんを母親が運び続け、その子が死んだあとも、しばらく亡きがらを運んでいました。一方、ドリル(マンドリルに近いサル)の群れでは、母親が死んだ赤ちゃんの世話を続けたあと、2日後からその亡きがらを食べてしまう「共食い」も記録されています。

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名前の由来と人とのかかわり

「猿」という漢字は、もともと中国でテナガザルを指していたと考えられています。ニホンザルなどのマカクには「猴」という字が使われ、中国では14世紀まで、この2つは区別されていました。野生のテナガザルがいない日本では、2つの字は区別されず、日本語では「猿」がサル全体を指すようになりました。

十二支の「申(さる)」は、もともとサルを意味する字ではありませんでしたが、十二支が動物と結びつけられて、申年はサルの年とされるようになりました。また、「さる」が「去る」に通じるのをきらって、「得手(えて)」と言いかえ、「エテ公」と呼ぶこともあります。戦国時代の豊臣秀吉が、「サル」というあだ名で呼ばれたことも有名です。

日本では古くから、サルは山の神やその使いとされ、日枝(ひえ)神社の使いともされてきました。サルは馬を守るという言い伝えもあり、東北地方には、馬の健康などを願って、サルの頭蓋骨や手などを馬小屋にかざる「厩猿(まやざる)」という風習がありました。日光東照宮の「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿の彫刻、狂言の『靱猿(うつぼざる)』、『桃太郎』や『さるかに合戦』など、サルは信仰や芸能、物語にもよく登場します。

色あざやかな松の木の彫刻の前で、耳・口・目を手でふさぐ3頭のサルの彫刻
日光東照宮の三猿写真: Ray in Manila(CC BY 2.0) / Wikimedia Commons

サルは、食べものとして利用されてきた歴史もあります。日本でも古くから食べられていて、675年に出された肉食の禁止令では、牛・馬・ニワトリ・犬とともに、サルを食べることが禁じられました。南アジアやアフリカ、中国の一部では、サルの脳が珍味として食べられることもあります。一方で、人にあまりにも似ているため、サルを狩ったり食べたりすることをタブーとする地域もあります。

サルはペットとして飼われることもありますが、多くはおとなになると気が荒くなり、飼うのはむずかしいとされます。日本では、ニホンザルなどのマカクのなかまは、特定外来生物になっている一部の種をのぞいて「特定動物」に指定されています。ペットにするための捕獲は、オランウータンやゴールデンライオンタマリンなどが減った原因のひとつとされます。

研究と、人とのあつれき

日本は、サルの研究がさかんな国です。第二次世界大戦のあと、今西錦司らが宮崎県の幸島や大分県の高崎山で、野生のニホンザルの群れの餌付けに成功し、その文化的な行動の研究は世界から注目されました。

ヒトに体のしくみが近いことから、薬や脳の研究にも、アカゲザルやカニクイザルなどのマカクが多く使われてきました。一方で、サルを動物実験に使うことへの反対意見も多くなっています。

ニホンザルは、農作物を食べる害獣にもなっています。畑を守るふつうの柵は登って越え、かかしなどのおどしも、すぐに危なくないと見ぬいてしまうため、対策には電気柵などのくふうが必要です。2019年の農作物の被害は約9億円でした。人になれたサルが人にかみついたり、物をうばったりする被害もあり、2022年には山口市で、少なくとも50人がサルにおそわれました。

世界に目を向けると、霊長類の半分以上の種に絶滅のおそれがあるとされ、数がへっている種も多くいます。おもな原因は、農地を広げるための熱帯の森の伐採や、食用・ペット・薬にするための狩りです。日本では、外国から持ちこまれて野生化したタイワンザルやアカゲザルと、ニホンザルの雑種が生まれていて、問題になっています。

よくある疑問

サルと類人猿(チンパンジーやゴリラ)は何がちがうの?
日本語の「サル」は、霊長類からヒトをのぞいたなかま全体の呼び名なので、広い意味ではチンパンジーやゴリラなどの類人猿もサルです。ただ、英語の monkey は類人猿をふくまず、日本語でも類人猿をサルと分けて呼ぶことがあります。類人猿にはしっぽがなく、分類の上ではヒトと同じヒト上科に入ります。ニホンザルなど、多くのサルにはしっぽがあります。
サルはなぜ人間に進化しないの?
ヒトは今いるサルから生まれたのではなく、ヒトと今のサルは、共通の祖先から枝分かれした親戚どうしだからです。たとえば、旧世界ザルと、ヒトをふくむ類人猿のなかまが分かれたのは2,500万〜3,000万年前と考えられています。それぞれが別の道を進化して、今の姿になりました。
サルは何類? 何科?
サルは哺乳類で、「霊長目(サル目)」というグループに入ります。何科かは種によってちがい、ニホンザルは旧世界ザルの「オナガザル科」、キツネザルのなかまはキツネザル科など、新世界ザルはマーモセット科やオマキザル科など5つの科に分かれます。
ニホンザルの顔はなぜ赤いの?
顔とおしりに毛がなく、赤い皮ふが見えているためです。秋から冬の交尾の季節には、さらに赤みが増します。赤さが相手選びの手がかりになっているのかは研究が続いていて、飼育されたニホンザルの研究では、オスが赤いメスを特に好むようすは見られませんでした。
サルはなぜ温泉に入るの?
長野県の地獄谷野猿公苑のニホンザルは、冬の寒さをしのぐために温泉に入ると考えられています。体を清潔にするための水浴びではなく、暖かくなると温泉に入らなくなるといいます。2018年の研究でも、冬の温泉は寒さから身を守るために使われていて、温泉を使えることとストレスホルモンの少なさが結びついていました。
サルは冬眠するの?
ニホンザルは冬も昼に活動し、1日に2〜4回食べものをとります。寒い夜は、何頭もが体をくっつけ合う「サル団子」になって眠ります。一方、マダガスカルのフトオコビトキツネザル(Cheirogaleus medius)は、しっぽにたくわえた脂肪を使って、最長7か月ほど冬眠することが分かっています。
ニホンザルの寿命はどのくらい?
野生ではふつう25年以下で、子どものうちに死ぬものも多くいます。えさをあたえられている群れでは30年以上生きたと考えられるサルもいて、メスで32年、オスで28年まで生きるという記録もあります。
ニホンザルは凶暴? 襲われないためには?
人になれたサルが人にかみついたり、物をうばったりする被害は起きていて、2022年には山口市で少なくとも50人がサルにおそわれました。力の弱い女性や子ども、お年寄りに対して攻撃的になりやすいという報告や、追い払おうとすると逆におどされたり攻撃されたりする危険があるという報告もあります。地獄谷野猿公苑では、えさをあたえない、さわらない、なるべく離れて見る、目をじっと見つめない、といったきまりがあり、サルとのトラブルをさけるために大切だとされています。

ナゾロジーで読む71本

  1. 01 サルに「ペットを飼う行動」の進化的起源を発見か
  2. 02 サルも「不気味の谷」に落ちていた
  3. 03 「新種のサル」をコンゴの熱帯雨林で発見
  4. 04 ジブラルタルの猿が「土を食べる」ようにーー原因は「観光客」にあった?
  5. 05 過酷な環境ほど、サルたちの同性間の性行動が多いことが分かった

参考文献

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表紙の写真: Yblieb(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons
ほかの写真のクレジットは、それぞれの写真のページにあります。
この図鑑は、参考文献の資料をもとに、ナゾロジー編集部がまとめています。